元五輪競泳代表・伊藤華英さん「中学受験で一度はスイミングをやめました」|VERY
「子どもの成長を待つ」ことは、母から教えてもらった
──アスリートのお子さんは、パパやママの影響でスポーツに熱心に取り組んでいるイメージがありますが、いかがでしょう。 4歳の息子には水泳やスポーツ教室みたいなものを習わせています。将来本人が何を好きになるかはわかりませんが、体力だけはあったほうがいいと思うので、スポーツ系の習い事はやらせたいと思っていました。今はどちらも楽しく通ってくれていて何よりです。 ──「お子さんが今日は習い事に行きたくないと言い出して困る」という声も読者からよく聞きます。伊藤さんなら、こんなとき、どう対応しますか? うーん。その時々の子どもの様子を見て判断するかも。一回休ませるとリフレッシュしてまたがんばれることもあれば、「今日は行かせたほうがいいな」ということもある。子どもの表情を見るとだいたいわかる気がします。私は小3で初めて全国大会に出場しましたが、その前に小2で選手コースに昇格し、毎日2~3キロメートル泳ぐようになりました。さすがに練習がきつくて、「お腹が痛い」と言ってサボろうとしたことがありました。そのときは、普段うるさいことは言わない母に「行きなさい」と言われましたが(笑)。 ──全国大会に行くほどの実力を持つお子さんを育てていたら、ついあれこれ口出ししたくなってしまうような気がします。 全然そんなことはなかったですね。熱心な親御さんは待合室で『スイミングマガジン』を読んでいたりするものでしたが、母が読んでいた姿は一度も見たことがありません。風邪から体調を崩したときは「無理しなくていい」と言われ、スイミングを2カ月休んだこともありました。復活したらみんなすでに進級していて慌てました(笑)。 中学校受験のために、小5で一度水泳をやめることを自分で決めましたが、それについても何も言われませんでした。当時はこのままもう水泳はやらないかもと思いましたが、進学先の部活選びで結局水泳部に。このころにちょうど成長期を迎え、身長もぐんぐん伸びていたせいかベストタイムも出て、とにかく水泳が楽しくなった時期でした。 引退にあたっても、母の助言が心の支えになりました。「こうしたほうがいい」と直接アドバイスするのではなく、引退したほかの選手が競泳の解説の仕事をしているのを見て「こういった未来もあるんだね」「あなたもぼんやり先のことを考えておくといいかもしれないよ」と言うくらい。娘の進路を決めつけずに「こんな生き方もある」と教えてくれるような関わり方がありがたく、親の存在の大きさを知りました。 ──伊藤さん自身がお母さんから受けた影響が、今の子育てに生きていると感じますか? 「待つ」ことの大事さは母から学びました。息子はプールでなかなか水に顔がつけられず、もどかしい思いをしながらも2~3年は見守り続けました。そうしたら、ある日、急にお風呂に潜り始めたんです。子どもによって性格も何かを始めるのに適したタイミングもまったく異なると思うので、うるさく言わないでどうやって育てていこうかと、試行錯誤の日々です。 習い事の先生など、親以外の大人に褒められたり時には注意されたりすることも、息子にとってはいい刺激になっているのではないかと思います。これからもたくさんの大人と接点が持てるように、親として気を配っていきたいです。