阪神の“大谷翔平1位指名”「可能性あった」 手を引かせた怪物…スカウト明かす回避の裏側
元阪神スカウトの中尾孝義氏は盗塁と打点数に驚嘆「考えられない」
「彼の高校時代、運動能力がびっくりするくらい高いと感じました。でも、メジャーでこんなにまで凄くなるとは。当時の僕は、思ってなかったかもしれないですね」。現役時代に中日でMVPに輝くなど巨人、西武と3球団で強肩好打の捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏が、阪神スカウト時代を回顧した。その“彼”こそメジャーの顔、ドジャースの大谷翔平投手である。 【写真】涙を流す高校時代の大谷翔平 大谷は昨オフにFAとなり、10年総額7億ドル(約1088億円)の契約で名門ドジャースに移籍。昨年9月に受けた右肘手術のリハビリで打撃に専念した今季は、54本塁打59盗塁で史上初の「50‐50」の快挙を成し遂げた。本塁打のタイトルに加え、130打点で2冠王に。打率.310で「トリプルスリー」も達成した。何より切望していたポストシーズンの戦いに米国7年目で初めて臨むと、一気にワールドシリーズ制覇まで駆け上がった。 「すっごいよね。凄いとしか言いようがない」。とりわけ評価するのは盗塁と打点。「メジャーは投手のモーションが大きいし、けん制球の数も制限されている。足の速い選手は盗塁がより試みやすいかもしれない。ただし塁に出ないと始まらない。本塁打だと塁に止まることなくホームに還ってくるわけだから、走る機会がなくなる。なのに大谷はあれだけ盗塁している。打点も1番バッターで130なんて考えられない。ドジャースの下位打線が頑張って大谷の前に走者をためているという事ですけどね」。長打力にスピード、勝負強さ。八面六臂の働きでチームを活性化させた姿に驚嘆する。 中尾氏は阪神スカウト時代、花巻東高(岩手)の菊池雄星投手(アストロズ)をマークした。菊池は2009年ドラフトで阪神を含めた6球団競合の抽選を経て西武入り。菊池と入れ替わりで同校に大谷が入学して以降は関東地区に担当が移ったが、「大谷の名前は知られていましたよ」と引き続き関心を持っていた。
中尾氏が熱視線送った大谷、藤浪、鈴木…いずれも後のメジャーリーガーに
大谷は高校3年の春、選抜に出場。初戦で大阪桐蔭と激突し、「4番・投手」で先発した。2-9で逆転負けしたものの、観衆の度肝を抜いた。2回、藤浪晋太郎投手(メッツ傘下マイナー)は左打者の大谷に対し、カウント2‐2から内角低めに切れ込むスライダーを投げた。大谷が力みなくさばくと、打球はあっという間に右翼席に突き刺さった。 「打っても投げても、何をとっても高校生のレベルじゃなかった。あの頃の大谷は、まだ体が成長過程で下半身の状態が本調子でなかったのに。打撃はスイング的にはちょっとアッパーな所はあったんだけど。でも、前の腕の肘が上がるアッパーではなく、肘が締まっているアッパー。低めは当然、スイングのスピードがあるから(打球が飛ぶ)」 2012年10月25日のドラフト会議。大谷はドラフト前にダイレクトでの米球界挑戦の意思を表明していた。阪神は、甲子園で春夏連覇を果たした藤浪を1位指名し、4球団競合の末に交渉権を得た。日本ハムが大谷を強行指名した。 「大谷はメジャー希望を宣言していたし、タイガースとしてはやっぱり地元の高校生のスーパースターにいかなあかんやろって。でもね、もし仮にあの時に藤浪がいなかったら、阪神も大谷の指名にいっていた可能性はあったと思います」。中尾氏は抽選で藤浪が外れた場合には二松学舎大付高(東京)の鈴木誠也外野手(カブス)を推すつもりでいた。「誠也も右中間へ飛ばす打球が強烈でした」。翻ってみれば、3人とも後にメジャーリーガーとなる程の逸材だったのだ。