高校生が鹿児島県喜界島で「サンゴ留学」のリアル 応募者ゼロからの1期生、そして迎える新入生
世界的に貴重な資源があるのに、初年度は「応募者ゼロ」
鹿児島県の喜界島は、奄美大島の東に浮かぶ、全周50kmほどの小さな島だ。現在の人口は約6400人。奄美群島の1つだが、奄美本島や徳之島と違って世界自然遺産登録はされていない。しかしこの喜界島にも、特徴的で重要な自然環境がある。島の大部分が世界的にも珍しい「隆起サンゴ礁」によってつくられたもので、今も年間約2mmという速度で隆起を続けているのだ。離島の例に漏れず、高齢化と人口減少が進むこの島で、「サンゴ」を活かした新たな学びが始動している。 【写真を見る】研究所のインターン生とサンゴ留学生の交流も 奄美群島の北東に位置する、鹿児島県の喜界島。飛び交うチョウに誘われて海辺を歩いてみれば、さまざまな形のサンゴを間近に観察することができる。この島は全体がサンゴ礁の隆起で形成されており、数多くの研究者や学生の調査拠点となっているのだ。 2014年には、北海道大学や九州大学などの研究者が集まって「喜界島サンゴ礁科学研究所」を設立。子どもたちを対象にした夏のサイエンスキャンプなどを行っていたが、2021年度に喜界町や鹿児島県立喜界高校と連絡協議会を立ち上げ、「サンゴ留学」のプロジェクトをスタートさせた。 これは全国から集まる高校生が喜界町指定の寮に入り、3年間を島で過ごすもの。喜界高校に通いながら、研究所のサポートでさまざまな学びも経験できる。このプロジェクトを担当する喜界町役場企画観光課の實浩希氏は語る。 「サンゴ留学のアイデアのもとになったのは、研究所のサイエンスキャンプに通っていた大分県の中学生が、サンゴ研究に魅せられて島に移住してきたことです。しかも、その生徒の友達ものちに喜界高校に編入してきてくれた。これを受けて、人口減少が進む島の関係人口を増やすためにも、島の魅力であるサンゴを活かそうということになりました」 だが、プロジェクト初年度となる2022年度の入学者はゼロ。そもそも応募者が一人もいなかった。 「これは完全に告知不足が原因でした。サンゴ留学の情報を届けるべき相手へのアプローチができていなかった。反省をもとに、地域おこし協力隊の若手職員を、プロジェクトのPRスタッフに起用しました」 専従スタッフが積極的にメディア露出を重ねたほか、どこからでも参加できるオンライン説明会なども実施。その甲斐あって、2023年度には6人の生徒が「1期生」として喜界高校に入学した。 取材当日はそのうち、宮﨑圭乃子さんと樋口美憂さんの2人が話を聞かせてくれた。宮﨑さんは東京都、樋口さんは鹿児島市内の出身だ。ほかには東京都出身者が2人、神奈川県と熊本県の出身者が各1人おり、男女比は2:4だという。昆虫など生き物に興味がある生徒もいれば、海が好きだという生徒もいる。 サンゴ留学生の直近の研究内容は、陸地から流れ出た水が、その成分によってサンゴにどんな影響を与えるか調査するというもの。テーマは研究所から与えられたものだが、海水の採取や分析、考察は生徒たちが相談しながら行った。宮﨑さんは「毎週決まった曜日の放課後に採水しなければいけないのですが、雨が降ったり定期テストがあったりと、予定どおりにいかない日もありました。データのない日の扱いをどうするかも含めて、みんなで話し合って分析を進めました」と説明する。