“30万円の絵画”が売れる!日本から世界へ「ヘラルボニー」のアートビジネス
この日、文登さんが訪ねたのは、大手カメラメーカー「ニコン」(東京・品川区)。9月に発売する新作カメラ「ニコン ヘラルボニー Z fc」のボディーデザインは全て「ヘラルボニー」の契約作家のもので、数年前から共同開発を進めてきた。 今やこうした大企業とのコラボが「ヘラルボニー」の事業の柱に。SDGsの時代、大企業の積極的な取り組みも追い風になっていた。
「ヘラルボニー」は「JAL」とも協業を始め、国際線のビジネスクラスのアメニティーや機内食の紙の帯など、「ヘラルボニー」の作家のデザインが採用されている。
7月上旬。文登さんは、JALの機内で使う紙コップの打ち合わせに。ベースのデザインには、福祉施設「やまなみ工房」(滋賀・甲賀市)に在籍する水上詩楽さんの原画が採用された。「JAL」でプロジェクトリーダーを務める松本有紗さんは、「多様性。一人一人がありのまま輝ける、そのままを肯定できるような社会を目指すということを掲げている」と話す。 文登さんはそんな松本さんたちの思いに応えようと、「やまなみ工房」に「JAL」のチームを招待。早速工房を案内すると、そこには、思い思いに作品に向き合う障害のある人たちの日常が広がっていた…。
「ヘラルボニー」松田兄弟ビジネスの原点
松田兄弟のビジネスの原点は、岩手・花巻市にある「るんびにい美術館」との出会い。ここに飾られている作品は、すべて障害のある作家のもので、17年前から無料で公開している。 そして美術館の2階は、作家たちが創作活動をするアトリエになっていた。 この施設に在籍する小林覚さん(35)は、松田さんたちと古くから交流がある作家で、これは数字をつなげた作品だそう。文登さんは「障害や福祉という言葉が一切関係ないぐらいフラットに感動した。これを社会に届けたいと思った時、作家のアートに対してリスペクトを持ったものづくりをやりたいと強く思った」と、起業の理由を明かす。
小林さんの作品を使って生まれたのが、このネクタイだ。ユニークなタッチをそのまま再現し、松田さんたちの最初の商品になった。「ヘラルボニー」は、原画など作品自体の販売では40パーセント、デザインを活用した商品の場合は5パーセントの使用料を作家に払っている。小林さんの去年の収入は、200万円ほどだった。 「福祉をビジネスにしていくのは、どうしても水と油というか…。本当に営利としてやっていくのは、なかなかハードルが高かった」と文登さん。 一方、覚さんの母・小林眞喜子さんは、「松田さんが、ネクタイをわざわざ持ってきてくれた。それを手にした時、立派ですてきで本当に感動した。そのうちすてきな作品がいっぱい発売されて、覚の収入が発生するようになった。前は障害者年金で覚の生活をやりくりしていたが、今は覚の収入で覚の必要なものは買えるようになった。私たちも若くないので、これからのことを考えるととても助かる」と話す。