”移籍組”が日本人ワンツーを決めた名古屋ウイメンズに見えた日本マラソン界の新しい潮流
男子は元10000m日本記録保持者の村山紘太(旭化成→GMOインターネット)、マラソンや駅伝で活躍した窪田忍(トヨタ自動車→九電工)、1500mで日本選手権を2度制している戸田雅稀(サンベルクス→SGホールディングス)という実績のある選手が移籍。女子では2017年ロンドン、2019年ドーハの世界選手権代表である鍋島莉奈が昨年末にJP日本郵政グループを退社して、今年から積水化学の所属になっている。 今回の名古屋ウィメンズマラソンで移籍組が日本勢ワン・ツーを飾ったのは、日本陸上界の“新たな流れ“といえるだろう。 安藤は2017年の名古屋ウィメンズで初マラソン日本最高となる2時間21分36秒(当時・日本歴代4位)をマークして、ロンドン世界選手権に出場した。しかし、コーチが退任したこともあり、ワコールに移籍。福士加代子、一山麻緒らとトレーニングを積んで、さらに強くなった。 2019年9月のMGCは8位に終わり、マラソンでの東京五輪代表は逃したが、昨年5月の日本選手権10000mで31分18秒18の自己ベストで2位を確保。10000mで東京五輪に参戦した。 そして今回は「一山とほぼ同じ練習ができている」と永山忠幸監督が話すほどの仕上がりだった。オレゴン世界選手権の代表選考レース3大会で安藤の記録は4番目。ペースメーカーが15kmでいなくなり、ゴール時の気温は20度を超えた。そのなかで果敢に攻めた安藤の走りはどう評価されるのか。 「今回のような上げ下げは海外レースや、五輪・世界選手権では当たり前なので、そこに対応できるようにしていきたい。オレゴン世界選手権の代表に選んでいただけたら、しっかり鍛え直して、後悔なく出し切れるレースをしたいです」(安藤) 一方の細田は2020年の名古屋ウィメンズマラソンで左太腿を肉離れしながら2時間26分34秒で8位に入っている。しかし、マラソンでの東京五輪代表を逃したこともあり、モチベーションを低下させたという。 「高校、大学でも『やめたい』と思ったことがあるんですけど、実業団では思うような結果を残せなかったこともあり、走るのが嫌になった時期があったんです」と細田。 ダイハツを退社したが、エディオンから声がかかり、競技を続ける道を選んだ。 今季は6月の日本選手権5000mで15分28秒05の自己ベストで5位に食い込むと、7月のホクレン・ディスタンス網走大会10000mで31分39秒32の自己ベスト。3回目のマラソンとなった今回の名古屋ウィメンズでは、「過去2回のマラソンとは違い、ケガなくスタートラインに立てたことが大きい」と細田は自信を持って第1集団に挑んだ。 難しいレースになったが、終盤も大崩れすることなく走り切り、今後の期待感を抱かせるレースを見せた。 「ご縁があって、『もう一度走らないか』と言っていただけたことをとても感謝しています。競技をやめなくて良かった……」と話すと涙がこぼれた。 以前は指導者とのミスマッチや、チームの雰囲気になじめないという状況でも、新たな環境で競技を続けるのは難しかった。才能がありながら、うまく移籍することができず陸上界を去った者も少なくない。そう考えると、安藤や細田のような移籍組の活躍は、多くの選手の“心の支え“になるだろう。さらに近年は大迫傑、川内優輝、神野大地、福田穣のように実業団ではなく「プロランナー」の道に進む選手も増えている。 これからのアスリートには、自分が強くなれる環境をしっかり選んで、悔いのない競技人生を送っていただきたいと思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)