「魚雷にロケットつけて空飛ばせ!」と思ったワケ 水中よりも好都合!? 60年現役のベストセラー兵器に
高性能化する潜水艦を駆るための「長槍」として
第1次世界大戦において多用されたことで急速に発達した潜水艦は、その後起きた第2次世界大戦で、水上艦船にとって最大の脅威となりえるまでに進化しました。とうぜん、そこまで性能が向上した「深海の殺し屋」を仕留めるため、各国では新たな対潜兵器が開発されたのですが、なかでもベストセラーとなったもののひとつが「ASROC(アスロック)」でしょう。 【3、2、1、発射!】護衛艦から発射されるアスロックを様々なアングルから(写真) アスロックとは、対潜水艦ロケットの英名である「Anti-Submarine Rocket」の略称です。 そもそも海中に潜む潜水艦を探し出すには、ソナー(水中探信儀)、ハイドロフォン(水中聴音機)、MAD(磁気探知機)などが使われますが、第2次世界大戦中は性能的な限界から探知可能範囲も限られていました。そのため、海中の潜水艦を攻撃する兵器も、比較的近距離を攻撃できるレベルで、せいぜい自艦から最大でも200~300mほどの射程でした。 ところが戦後、ソナーの性能が向上して探知可能範囲が拡大されると、より遠くまで届く対潜兵器が求められるようになります。 一方、対潜兵器自体も、従来の爆雷のような無誘導のものではなく、対潜誘導魚雷の性能が向上して命中率も著しく向上していきます。しかし艦船よりは速いといっても、対潜誘導魚雷の速度は、決して俊足というほどではありませんでした。 そこで、むしろ射程の短さやスピードの遅さを威力でカバーできる対潜兵器として、核爆弾の原理を応用した核爆雷まで造られるようになります。とはいえ、核爆雷は、近距離で起爆すると、自艦まで破壊されるほどのすさまじい威力を持っていたため、それを遠方に投射できる兵器が要求されるようになりました。
魚雷+ロケットで遠投が可能に
こうした事情から発案されたのが、対潜誘導魚雷や核爆雷を自艦から遠く、しかも素早く投射するために空を飛ばすやり方です。水中を進ませると時間がかかるのに対し、大気中を飛ばせば距離も速度も稼げます。 そこで白羽の矢が立ったのがロケット。この先端、すなわち弾頭部に対潜誘導魚雷や爆雷を装着し、目的海域まで飛行させればよいのではないかとなり、こうして生まれたのがアスロックでした。 アスロックの構造は、飛行推進用のMk.12ロケット・モーターがベースで、その前部に、弾頭となる対潜魚雷や核爆雷が取り付けられます。最大射程は約9000mです。 ロケット自体は無誘導で、発射前に決められた距離を飛行すると、ロケット本体から弾頭が切り離されてパラシュートが開き減速しながら海面へと落下。その衝撃を受けて、海中では抵抗以外のなにものでもないパラシュートが外れ、対潜魚雷なら設定された深度まで沈降したあとに索敵行動を開始し、目標を捕捉します。一方、核爆雷の場合は設定深度まで沈降すると起爆します。 弾頭に用いられるのは、アメリカ製のMk.44やMk.46といった対潜誘導魚雷、またはW44核爆雷です。Mk.44はすでに退役していますが、Mk.46のほうは改良型が現在も使われています。また、日本ではその後、国産の73式対潜魚雷も開発されています。 一方、W44はアスロックに搭載するために開発された専用の核爆雷で、核出力は10キロトン。こちらは575発が生産されました。