元ラーメンズ・小林賢太郎が作ってきたもの 「うるう」公開をきっかけに改めて感じた古びない独自性
ミニマルなセットと衣装
お笑いにアーティスティックな要素を盛り込んだのも、ラーメンズからではないだろうか。とくにシンプルな舞台セットと衣装は、そのイメージを拡大させたように思う。 コンビ時代のバカリズムも全身黒ずくめの衣装で舞台に立っていたが、彼らは日本映画学校(現・日本映画大学)の芝居の発表会で着ていた基本衣装(観客の想像をかき立てるよう、あえて着る地味な衣装)を気に入り、お笑いの世界に入ってからも採用したという。 一方、ラーメンズは意識的にミニマルな方向へと舵を切っている。公演内容とタイトルがリンクし、ベンチや机といったセットは箱イスで表現され、基本的な衣装は同色のセットアップ。いずれも美大出身らしいコント師のイメージを打ち出していた。 オークラは前述の『自意識とコメディの日々』の中で、出会ったばかりの頃との様変わりを「ラーメンズが化けていた」と表現し、その後、観た公演のクオリティーの高さをこう記している。 「1999年の第3回単独ライブ『箱よさらば』ではコントセット、衣装、幕間をすべて一番シンプルな状態までそぎ落し、見ているお客さんの想像力に委ねる形を完成させていた。このコントの世界観も相まってラーメンズの単独は、ほかの芸人の単独と一線を画し特別なブランドとして確立していった」 お笑いコンビ・キュウの単独ライブは、漫才公演でありながらラーメンズに近いミニマルな世界観が感じられる。暗転板付きでセンターマイクの前に登場し、ネタ終わりで照明が落ちるとピアノとセミの声が流れたりする。ネタとネタの間に幕間映像はなく、シンプルにネタを披露していくスタイルだ。 ネタ作成を担当するぴろは、2022年6月24日にFRIDAYデジタルで公開された「『必要ないものはすべて省く』お笑いコンビ・キュウが語る美学」の中で「演劇とか映画、落語とかを観て参考にした」「1本の筋で通して、構成とかストーリーに必要ないものはすべて省く」と語っている。 引き算で構成や演出を突き詰めていった結果、ラーメンズに近い単独ライブの世界観が確立されたのだろう。