元ラーメンズ・小林賢太郎が作ってきたもの 「うるう」公開をきっかけに改めて感じた古びない独自性
特徴的なシステムが機能するコント
もう一つラーメンズのコントで特徴的なのが、「非日常の中の日常を描く」というコンセプトだ。 同時代に登場したバナナマン、バカリズムにもその要素を感じるが、もっとも意識的に実践したコンビはラーメンズだろう。2001年10月に放送された『トップランナー』(NHK総合)の中で、小林は前述の「現代片桐概論」についてこう語っている。 「あの教授は毎年、毎週、あの授業をやってる人なわけで、非常事態ではないんです。みなさんから見たら非常識な世界なんですけど、非常識な世界に住んでる人の常識をやってるわけですよ。ところが常識の世界の中で起こった非常識を描こうとしているものが多いし、自分もやってたなと思って(筆者注:それをやめた)」 第1回単独公演『箱式』から最後の公演となった『TOWER』まで、ラーメンズは一貫した世界観でコントを作り続けた。 現在バナナマンや東京03などの単独ライブをサポートする作家・オークラは、1990年代中盤に芸人として活動をスタートし、彼らと同じタイプのコントを実践していた1人だ。著書『自意識とコメディの日々』(太田出版)の中で、こうしたコントを個人的に“システムコント”と定義づけていたと書いている。 「『演じるコントの世界に1つのシステム(ルールや状況)を作り、そのシステムを前提としてお話を進めていく。そして、そのルールをお客さんに理解させたところで、展開のさせ方や崩し方でさらに笑いを作る』というものである。そのルール自体が笑える仕組みの場合もある」 ポテトチップスの袋を開封する専門業者とのやり取りを描くチョコレートプラネットの「業者」、木の樹液を好み懐中電灯の光に集まるおじさん虫が登場するハナコの「昆虫採集」といったコントでも、特徴的なシステムを生かして笑わせている。1990年代中盤以降、非日常的なシステムからネタを作る概念が生まれ、いまだ機能していることが興味深い。