外食の「とんきゅう」従業員の負担減で売上が右肩上がりに
全国チェーンではないが、地域に根ざした特色あるファミリーレストランが日本各地には存在する。その一つ、茨城県つくば市を本拠にファミリーレストラングループを展開する「とんきゅう」(矢田部武久社長、1978年設立)が、近年の働き方改革の中で注目されている。 とんきゅうは、本部のあるつくば市のほか、茨城、千葉、埼玉で、主力のトンカツ専門店「とんQ」を含む4業態15店舗を展開している。人気の秘密は、各店で提供される品質の高い料理はもちろんだが、ある工夫で従業員の負担を減らし、その分、充実したサービスを展開しているところにある。
その工夫とは何か。それは本部で導入したセントラルキッチンである。トンカツ料理の店といえば、すべて肉の切り出しから店で調理して提供するというイメージが強いが、とんきゅうでは、セントラルキッチンで肉切りを集中的にそこでやることで、各店舗の負担を減らした。最大の目的は、店舗の労務環境を改善することだった。 以前は、肉をはじめキャベツ、ドレッシングなどのソース類も全て店舗で仕込んでいた。その結果、スタッフに負担がかかり、特に土曜日、日曜日、祝日などの繁忙期また正月、五月の連休、お盆時期など高い売上が連続して続く連休などは、昼食も休息も取れない状態で、長時間労働が常態化していた。離職率も高く、安定した人員確保が難しかったという。 少子高齢化が進む中、長時間労働からの脱却と余裕を持って仕事ができる環境整備の一環として、セントラルキッチンの導入に踏み切った。その結果、店舗スタッフの仕事量は軽減し、余裕を持って仕事ができるようになり、品質は向上した。従業員の定着率も改善し、仕入れ、加工ともに一元化できて仕事効率も上がったという。 とんきゅうは、「社員の幸せを一番に考える会社」とホームページに掲出するなど、社員を大事にしているのが特徴だ。「幸せ感」は人それぞれだが、共通しているのは、お金、時間、達成感、働きがい、やり甲斐、感動などだ。まずは夢や目標ありきで、自分はどうなりたいのか、どうすればいいのか、どうなったら幸せなのか、何のために働くのか、などを社員には常に考えてもらっているという。 仕事は、人事評価制度で公平に評価し、昇進、昇給、賞与に反映される。トップ店長の賞与を半期で100万円支給した実績があるほか、1か月の長期有給休暇取得、年2回の社員旅行の実施、年末年始の休業などだ。 こうした社員を大切にする姿勢を維持しながら、売上高は右肩上がりで上昇している。セントラルキッチンの稼働開始は2015年11月だが、売上高は14年3月の17億500万円から17年3月は20億3900万円と1.19倍の成長となっている。 働き方改革が指摘される中、こうした働く環境を向上させつつ業績を伸ばしている企業が実際にあるということは、他の業界の参考になるだろう。 (3Nアソシエイツ)