1000億分の1秒だけ光る超高速レーザーで長年の課題克服…世界が注目する日本の「冷却原子型量子コンピューター」研究
世界が注目する日本の研究
2040年には数十兆円の市場価値になると予測され「量子コンピューターを制する者は世界を制す」とも言われる中、日本の分子科学研究所が開発した超高速レーザーに注目が集まっている。 【画像】世界が注目する大森グループのメンバー 量子コンピューターとは、現代のスーパーコンピューターだと何億年や何兆年といった天文学的な時間がかかる計算に対して、数秒から数日で答えを導き出すという究極のコンピューターのこと。 その量子コンピューターの分野で、いま世界でもっとも注目されている1つが、愛知県岡崎市を拠点とする自然科学研究機構分子科学研究所の大森賢治教授の研究グループだ。 大森グループが研究しているのが冷却原子型だ。 冷却原子型の量子ビットは、レーザー冷却により絶対零度付近まで中性原子気体を冷却し光ピンセットと呼ばれる特殊なレーザー光で原子をつまんで量子ビットとして配列していくことで形成される。 大森グループは、国が未来に向けた技術革新を推進するムーンショット計画のプロジェクトに参加していて、2030年までに量子誤り検出・訂正機能を備えた大規模かつ高機能な冷却原子型量子コンピューターの実現、2050年までに経済、産業、安全保障に革新をもたらす量子コンピューターの実現を目標に掲げている。
実用化に向けた最大の難関
最大の難関の1つは、量子誤り訂正を組み込むことだ。現在のスパコン同様、量子コンピューターにもエラー、誤りが発生する。 量子コンピューターでこの誤りを正しながら計算を実行することはとても難しい。 大きな理由の1つが、2つの量子ビットをもつれさせて相関関係を作る「2量子ビットゲート」を十分な精度に高めるのが難しいことだ。この2量子ビットゲートは外部の環境ノイズなどによって精度が損なわれてしまい、誤り訂正の問題が生じる。 さらに誤りの検出にも2量子ビットゲートが用いられるため、2量子ビットゲートの高精度化は根本的な問題となっている。2量子ビットゲートの精度を下げるノイズの影響を抑えるためには、できるだけ高速なゲートが望ましい。 大森グループでは、1000億分の1秒だけ光る超高速レーザーを開発し、冷却原子型の2量子ビットゲートの速度を従来方式より一気に2桁加速し、環境ノイズの影響を大きく抑制できるようにした。 これは量子スピード限界と呼ばれる領域に達しており、冷却原子型で20年以上にわたり未解決だった長年の課題を世界で初めて克服した。
「産・官・学」が強力タッグ
大森グループの研究する量子コンピューターの開発実用化に向けて富士通、日立、NECなど民間企業が参加しているプラットフォームに今月、国立研究開発法人産業技術総合研究所、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センターの参画も決定、「産・官・学」が連携して実用化を進めていく。 (フジテレビ社会部 大塚隆広) (※冒頭の写真は大森量子プロジェクトで開発中の量子コンピュータ-)
大塚隆広