中村橋之助が映画初主演で見出した新境地 18~65歳の役を演じ分け、苦戦を乗り越えられた理由は
共演した志田未来や渡辺大から刺激
「新春浅草歌舞伎」(東京・浅草公会堂で1月26日まで開催)に出演中の歌舞伎俳優・中村橋之助(29)は、『シンペイ~歌こそすべて』(1月10日公開、神山征二郎監督)で初めて映画主演を務めた。本作は『ゴンドラの唄』『東京音頭』『シャボン玉』など、2000曲以上を手掛けた作曲家・中山晋平の人生を描いた音楽映画。18歳から亡くなる65歳までを演じ切った橋之助が映画の現場で感じたことは――。(取材・文=平辻哲也) 【写真】『シンペイ~歌こそすべて』劇中カット 『シンペイ』の出演オファーを受けたのは、一昨年、歌舞伎座での公演中。橋之助にとって、この作品は映画の世界に足を踏み入れる新たな挑戦となった。中山晋平という人物は知らなかったものの、彼の成功と挫折に触れるうちに、共感を覚えるようになったという。 「晋平さんはとんとん拍子に成功されるのですが、その分失速する。成功と挫折を経験されているように見えたので、そこを人間らしく演じてみたいと思いました。共感する部分、似ている部分は多かったです。例えば自分が好きなこと、学びたいことに夢中になるところ、生まれ持った性格的な部分でしょうか」 晋平役を演じるにあたり、課題は楽器の習得だった。 「邦楽器は子どもの頃からやっていましたが、ピアノはまったくの素人で。楽譜が読めないのでシールを貼って覚えました(笑)。特に『シャボン玉』のシーンでは、リハーサルの時間を重ねてようやく音を取れるようになり、嬉しかったです」と、その努力と喜びを語る。 撮影では18歳から65歳までの晋平を演じ分ける必要があり、さらに撮影の順番もバラバラだったことには戸惑いもあったという。 「映画の撮影では、瞬発力がすごく大事だと感じました。初日の撮影が、亡くなった母ぞう(土屋貴子)と対面するシーンだったこともあり、感情を作るのが大変でした。でも、監督が『初々しさがいい方向にいった』と言ってくださって、ホッとしました」と、初映画ならではの難しさを振り返る。 橋之助にとっては年上の役は未知の領域。特に40代以降の役については、歌舞伎の先輩俳優のインタビュー映像をヒントにした。 「NHKの舞台中継前のインタビューなどを見て、話し方や雰囲気を参考にしました。特に年を取ると反応が変わるところや、逆に変わらない部分があるのを観察しました。ただ、晩年のシーンは正直、出たとこ勝負の部分もありました」と、リアリティーを追求する姿勢を明かす。 撮影では、共演者に助けられることも多かったという。 「島村抱月役の緒形さんは、晋平の師匠でしたが、僕にとっても大きな師匠でした。力の配分や感情の作り方など、たくさんのヒントを頂きました。(妻役の敏子役の)志田未来さんや(作詞家・西條八十役の)渡辺大さんとの演技も、言葉や感情のキャッチボールがあって、すごく助けられました。一方、1人でのシーンは相手がいない分、演じるのが難しかったです。でも、その分、自分で試行錯誤する機会にもなりました」