評伝・槇文彦さん 細部の完成度に執念 幕張メッセ、ヒルサイドテラス…作品は常に話題に
6日に死去した建築家の槇文彦さんは、近代建築の巨匠、ル・コルビュジェらに影響を受け、機能性を重視した近代建築の利点を吸収しながら、現代的な素材を積極的に取り込んだ。環境との調和を考慮した京都国立近代美術館、ステンレス・スチールのかぶとのような屋根が特徴の幕張メッセなど、発表した作品は常に話題になった。 槇さんの代表作の一つ、ヒルサイドテラス(東京都渋谷区)はコンクリートの低層建築に店舗やオフィス、住居が入居し、小さな広場が設けられている。元からあった樹木を生かし、路地や庭のある豊かな空間づくりに成功した。 「建築は文学と違って自分一人でつくりだすものではなく、依頼する施主がいないとできません。よい施主と巡り会え、都市が変貌していく中で、ささやかな街づくり的なものができたことは幸運でした」 世界文化賞を受賞した際のインタビューでは、「細部の完成度に建築家の持っている執念が表れなければならない」と話した。建物全体の優れた意匠は、階段の手すりやドアのノブといった細部のデザインのこだわりから生まれた。 世界で認められた建築界の重鎮として、豊かな見識に裏打ちされた発言は重みがあった。新国立競技場の最優秀案(ザハ案)が、白紙となってしまったのはその影響力ゆえのこと。 「建築のことは四六時中考えています。幸い紙と鉛筆があればどこでもできるし、夜寝ているときでも考えています」 建築への思いは人一倍強かった。知的な風貌とクールな性格。建築家らしい建築家だった。