「サウジアラビア」の人権問題を見て見ぬふりをする日本政府は、なぜ「中国」の“人権侵害”だけを問題視するのか 古賀茂明
■サウジの人権問題へは関心を持たない 一方で、サウジ政府の人権侵害や報道弾圧などについては見て見ぬふりを続けている。 おそらく、今回も、サウジの状況について何も知らない国民に対して悪い情報は隠したままで、アラビアのプリンスがやってきたという華やかな雰囲気を作り、彼らの超超超金満家ぶり(お金の使い方が常識はずれで、それを追いかける報道が過熱するはずだった)やMBSのアニメ好きの一面などを面白おかしく報道させて、裏金問題などの不都合なテーマから国民の気を逸らすのに好都合だと計算していたことだろう。 今回この件を取り上げたのは、二つのことを言いたかったからだ。 一つは、日本のマスコミが、世界では強い関心を集めているサウジの人権問題に全く関心を持たない、というより、問題に気づくことさえできず、従って報道もしないということだ。 5月14日配信の本コラム(日本が今でも「報道の自由度」70位に低迷する理由 安倍政治で“変えられてしまった”記者たちの末路)で指摘した日本の記者の質の劣化・変質をものの見事に示したと言っても良いだろう。 もう一つは、サウジと中国の比較だ。 日本人の多くは、中国では、人権侵害がひどく、報道の自由もないと思っている。 一方、サウジについては、砂漠の大産油国ということ以外あまり知らないだろう。報道の自由や人権の状況がどんなものかということは、日本政府がスルーし、マスコミも報じないので、知る術がないのだ。
■報道の自由度が低いサウジと中国 そこで、二つの代表的な指標を使って、サウジの状況を中国と比較してみよう。 まず、前述の本コラムでも紹介した国境なき記者団による報道の自由度ランキング(24年)だが、中国は172位だ。日本が70位だから相当低いと言って良いだろう。 では、サウジはどうかといえば、166位で中国とほぼ並んでいる。中国に報道の自由がないと言うのであれば、サウジにもないと言うべきだろう。 次に、Freedom House の世界の自由度報告書「Freedom in the World」による自由度ランキング(24年)をみると、確かに、中国はこちらでも低く、181位9点である。 しかし、皆さんには意外かもしれないが、サウジはさらに低く、183位8点となっていて、世界でも極めて悪い状況だ。 そこで疑問が湧いてくる。 中国に対しては、米国は深刻な人権問題があるとか報道の弾圧があるなどと酷評し、制裁まで加えている。それとともに、中国は危ない国だという風評を世界に広げ、世界の国々に中国と付き合わないようにと促しているのだ。 一方、人権重視の外交を展開し、中国を激しく批判する米国は、国家情報長官室がサウジの皇太子が殺人を承認したと断定しているにもかかわらず、また、EU諸国や世界の人権団体が強く問題を指摘しているにもかかわらず、サウジとの間で、積極的に貿易や経済協力を展開している。いかにも矛盾した態度ではないか。 そして、日本政府は米国隷従なので、中国は非民主的で価値観が違うとことさらに宣伝してほとんど対話のチャネルを閉じたまま、その一方で、サウジに一言の苦言を呈することもなくニコニコと笑顔を振りまきながら、関係を強化しようとしている。