宇宙開発競争に打ち勝つ「ほどよし信頼性工学」とは?
日本のあちらこちらで「安心・安全」が叫ばれています。しかし、これを支えていくには膨大なコストが必要です。宇宙産業も同じです。「過酷な宇宙に打ち上げる人工衛星に失敗は許されない」と一基あたり何百億円の予算が投じられます。その現状に対して「いや、しかし、ほどほどでいいのでは?」と問題を提起する研究者がいます。それって失敗してもいいということなのでしょうか?
「ほどよし信頼性工学」は発想の転換
「逆にシンプルな方が失敗が少ないのです。見通しがよくなりますからね」と発想の転換を提唱しているのが、東京大学で航空宇宙工学を研究者する中須賀真一教授です。 これまでの考え方では、人工衛星に不具合があってはいけないので、あらゆる不具合を想定して、いくつもの対応策を組み込みます。そうするとでシステムは複雑化し、製作コストや開発期間が増大していき、「複雑化が複雑化を生む」状況となります。このため、人工衛星一基を開発するのにかかる費用は数百億円、開発期間も5年以上かかるという常識ができていました。 これに対し、中須賀教授は超小型衛星1基あたりの製作コストを3億円以下に、開発期間は2年に短縮するという手法=理論を確立しました。それが発想の転換「ほどよし信頼性工学」です。その考え方の第一は「シンプル・イズ・ザ・ベスト」です。 私たちがよく見る人工衛星は、両腕を伸ばして太陽電池を広げています。人工衛星が活動に必要な電力を得るため、太陽電池は常に太陽を向いていなければなりません。これを実現しようとすると姿勢制御のシステムが必要になります。しかし、中須賀教授はこう考えます。「人工衛星がどちらを向いても死なないように、どちらの方向にも太陽電池をつければいいのでは?」。 人工衛星が不具合を起こしてしまったら、その不具合を回復するための別のシステムが必要だと多くの人は考えます。しかし、「ほどよし信頼性工学」に基づくと「地上のパソコンみたいにリセットすればいいのでは?」となります。衛星の常識では考えられない対処法ですが、担当者は様々な状況に対応できるようあれこれ考えることなくシンプルに対応できるようになり、実際その機能を備えて東大が打ち上げた1kg衛星は10年以上生きています 。