宇宙開発競争に打ち勝つ「ほどよし信頼性工学」とは?
また、それによってコストを大きく引き下げることもできます。私たちが使っているパソコンにたとえていうと、不具合が起きないよう安心・安全に作られた超高機能、超高価なパソコンを使うのではなく、不具合が起きたら再起動すればいいだけの安価でシンプルなパソコンを使いたいという考え方に似ています。 コストが削減されたからといって、安全・安心が損なわれるわけではありません。むしろその逆なのだと中須賀教授は強調します。「システムが複雑になれば、部品と部品をつなぐインターフェイスの数が飛躍的に増えてしまいますが、シンプルに作れば設計が楽になり、システム全体に見通しが効くようになる」というわけです。 複雑で過大な安全・安心なシステムを前提とすると、その対策漏れをチェックする人や期間もかかってしまいますが、シンプルに作ればいずれも少なくなり、しかも開発期間中に何度も実際的な点検と対応を繰り返せ、システムの「個性」がよくわかってくるというメリットも出てきます。
日米間の圧倒的な予算差
「屋上に屋を架す」という言葉があります。たとえば、雨を避けるために屋根が必要だったとして、穴が開いたら大変だから事前にその上にまた屋根を作っておこうと。しかし、目的は雨に濡れないこと。穴が開けば穴をふさげばいいだけ。その方が誰にでもできる作業だし、コストもかからない。言ってみればそういう考え方です。 なぜコストにこだわらないといけないのでしょうか? JAXAの宇宙開発予算は1800億円であるのに対して、NASAは1兆7000億円以上あります。日本は人もお金も資源は無限ではありません。日本が宇宙開発の競争で勝ち抜こうとした場合、「ほどよし信頼性工学」は高価で重厚長大な作り方をするのではなく、安価な小さな衛星をいくつも飛ばしてトップに立つという未来を描いているのです。 「ほどよし信頼性工学」に基いて作られた人工衛星は「ほどよし衛星」と呼ばれています。東京大学が作ったほどよし衛星は2014年中にロシアから打ち上げられる予定です。 中須賀教授は、「日本人は凝り過ぎる傾向にあります。凝りすぎることによるコストはビジネスにつながると限りません」と指摘します。 「ものづくり大国」という言葉は美しい響きを持ちますが、もはや使わない方がいいのかもしれません。宇宙開発だけでなく、グローバルなビジネスは大きな流れとして、特殊な技能に頼らない、シンプルなシステム作りを志向しています。「ほどよし信頼性工学」は、宇宙工学だけでなく、私たちのビジネスにも応用できる可能性を秘めています。