「“東洋の時計王”の志を演じる、描く。」楡周平×西島秀俊『黄金の刻 小説 服部金太郎』
日本が世界に誇る時計メーカー・セイコーの創業者・服部金太郎(はっとりきんたろう)の人生を、作家・楡周平さんが小説に描いた『黄金の刻(とき) 小説 服部金太郎』がこの春、テレビドラマ化される。 その主人公、服部金太郎を演じるのは、今や世界でも注目される俳優・西島秀俊さん。 服部金太郎によって結ばれた原作者と主演俳優が、時を超えてなお生き続ける“東洋の時計王”の起業家精神、セイコー創業者として“時計”製造に懸けたその志に思いを馳せながら、ここに語り合う。 【画像】楡周平×西島秀俊『黄金の刻 小説 服部金太郎』 構成・文/西村章 撮影/大槻志穂 ヘアメイク(西島)/亀田雅(Masa Kameda) スタイリスト(同)/カワサキタカフミ
服部金太郎を書く、演じる
楡 服部金太郎さんという人物を実際に演じてみて、いかがでしたか。僕は小説家なので、この物語を書くにあたっては史実を元にしながら自分なりに服部金太郎という人物像を掘り下げて物語を作ったんです。 西島 楡さんの原作小説を読ませていただくと、服部金太郎という人物が自分の頭の中のイメージとして、本当に生き生きと浮かび上がってくるんです。実際に起こった事実やその時代を生きた人々を元に、そこから洞察してストーリーや人物像を作り上げていく小説の手法は、今回自分が服部金太郎さんを演じるに際しても非常に参考になりました。とても面白く読んだので、今日こうやってお目にかかることをすごく楽しみにしていたんです。 楡 じつは私、このコロナ禍の4年間で配信ドラマにすっかりハマってしまいまして、Netflixなどのサブスクリプションサービスに四つぐらい加入しているんです。ドラマを楽しんで観ながら、俳優さんたちの演技や感情表出などの人物表現の凄みにいつも感心しているんですよ。でも、今回のドラマ『黄金の刻』についていえば、服部金太郎という人は、意外に感情の起伏があまり多くないキャラクターなんですよね。西島さんは、そのあたりをどう感じながらこの冷静な人物を演じていたのか、とても興味があります。 西島 一人の男性が、丁稚奉公から始まってやがて世界的企業を作るまでに至った、そのエネルギーや思いの源泉って何なんだろう、そんなふうに大きな企業が作られてゆくというのはどういうことなんだろう、というのが演じる側にとってもやはり大きな興味でした。その答えのひとつは楡さんの原作小説や今回のドラマの脚本の中にあって、要は彼の周囲に人が集まってくるんですね。金太郎自身も、たとえば若い職工の人たちに学校を作って、ここに来れば自分の可能性がもっと広がる、働きに来ているだけじゃないんだ、というチャンスの場を与えている。もちろん先見の明や洞察力や揺るがない信念を持っていたことも大きな理由なんでしょうが、何かこう、彼には人とつながってゆく才能があったのだろうなと感じました。 とはいえ、確かに写真を見ると冷静というか恐(こわ)そうな雰囲気なんですよね(笑)。実際にはそういう厳しい面もあったのかもしれませんが、この当時の人にしては珍しくお酒もあまり飲まなかったようで、そんな生真面目さが人間的に可愛らしいチャーミングな魅力として多くの人を惹きつけたのだろうと自分なりに読み取って、ドラマの中では演じています。