島唄は「気慰め」 第43回奄美民謡大賞受賞の上原京子さん
大賞発表の瞬間、緊張がほどけると同時に涙がこみ上げた。まな弟子で青年の部最優秀賞の岡美里さんとステージ上で手を取り合い、師弟で喜びを分かち合った。「初出場から大賞受賞まで16大会かかった。うれしいが、実は弟子に(大賞を)取ってほしかったという気持ちもある」とほほ笑む。 瀬戸内町加計呂麻島で生まれ育ち、15歳で兄の暮らす兵庫県尼崎市に移住した。定時制高校を卒業後、大学で家政学を専攻。島に戻って教師になることを望んだが、奄美で家庭科教諭の募集がなく帰郷はかなわなかった。 古里への思いを募らせ、29歳で島唄の道へ。同じ教室に通っていた生徒のおいで、同町西古見出身の夫・文則さん(77)と出会い結婚。3人の子どもに恵まれた。 子育て中は島唄から離れていたが、40歳で再開。島唄教室に通って修行を積んだ。原動力となったのは文則さんからの激励の言葉だ。「お前は島唄で道を開いている。やめたらあかん」。 「朝花節」にある、「唄は家計の足しにはならないが気慰めになる」という意味の歌詞が心の支え。「島唄は自分が元気になるためのもの。好きだから続けられる。一緒に島唄を習ってきた娘からも『歌った後が一番いい顔をしている』と言われる」。 2004年に島唄教室「ひぎゃ節会」を開き、これまで約20人の弟子を育ててきた。岡さんもその一人。先月19日には、地元加計呂麻島で初めて島唄コンサートを開いた。地域住民など多くの観客が訪れ、公演は大成功を収めた。 今回の大会で披露したのは「朝顔節」。みんなに良いことがありますように、との願いを込めた自作の歌詞「果報あらちたぼれ/とうとがなし」を情感豊かに歌い上げた。 今年に入ってからは体調不良が続き、十分に練習時間が取れなかったが「気負わなかったのが逆に良かったのかも。自分の味を出して歌うことができた」。 古里を離れて57年。「島を出たから島の良さが分かる。島外に住んでいても大賞を取れたことに大きな意味があると思う。これからも大好きな島唄を歌うことで、皆さんの気慰めができたら」。 【プロフィル】1952年、瀬戸内町加計呂麻島木慈出身。15歳で兵庫県尼崎市に移住した。島唄を川節敬三、武下和平の2氏に師事。奄美民謡大賞出場は計16回。過去に最優秀賞4回、新人、特別、奨励、優秀の4賞を各1回受賞。3人の子どもは独立し、夫・文則さんと大阪市で2人暮らし。72歳。