国連「勧告」で分かった日本政府の独善的対応 成城大教授 森暢平
◇前回は記述を削除 勝ち誇った安倍首相 実は、一つ前、「第8回報告書」に対するCEDAW「最終見解」(2016年3月)にも、草案段階で「皇室典範」の記述があった。この時、日本政府は、事前質問でも審査会合でも「皇室典範」には触れられていないと指摘し、CEDAW側も「手続き的瑕疵(かし)」を認め、記述を削除した。 こうした経緯は、保守系議員のナショナリズム意識を刺激し、参院予算委員会(16年3月14日)で、自民党の山谷えり子は「(CEDAWによる)日本の国柄、伝統に対する無理解」だと主張した。当時の首相、安倍晋三は「今回のような事案が二度と発生しないよう、また我が国の歴史や文化について正しい認識を持つよう……機会を捉えて働きかけをしていきたい」と応じた。「日本の正しい姿」を戦略的に発信したため削除に成功したという勝ち誇った口ぶりだった。 今回の勧告で、官房長官の林芳正は10月30日の記者会見で、事前の申し入れにもかかわらず、皇室典範の記述が残ったことに改めて抗議し、削除を申し入れたと明かした。国内向けに威勢のいい発言だが、こうした一国中心主義(ユニラテラリズム)が、国際社会に受け入れられるはずもない。独善はいずれ限界がやって来る。(以下次号) 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW〈セダウ〉)は10月29日、日本の女性差別に関する状況を審査したうえで「最終見解」を公表した。そこには男系男子に皇位を限る皇室典範の改正勧告も初めて含まれた。日本政府は強く抗議するというポーズを見せたが、国際社会との溝は大きく、対応の独善性が目立っている。(一部敬称略) (以下次号) ■もり・ようへい 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など 「サンデー毎日」11月24日号には、ほかにも「『あと8年で首相になる』山本太郎の政局斬り」「『虎に翼』脚本・吉田恵里香さんインタビュー」「低カロリー&食物繊維たっぷり! きのこで腸活」などの記事も掲載しています。