大島優子は目に宿る温度までも表現する 『GO HOME』で最大まで発揮された表現力
大島優子が『GO HOME~警視庁身元不明人相談室~』(日本テレビ系/以下、『GO HOME』)に出演することが発表されたとき、「ついに来た!」と思わず喜んでしまった。2023年1月に第1子を出産して以降、俳優活動をセーブしていた大島。4月クールの話題作『アンチヒーロー』(TBS系)での復帰を経て、2番手キャストとして出演する『GO HOME』では、どんな芝居が見られるだろうと期待した。 【写真】場面カット 『GO HOME』で大島が演じているのは、三田桜(小芝風花)と10歳差のバディを組む月本真。元々は、週刊誌の記者をしていた真は、婚約者の小田切慎一(福田悠太)を捜索するなかでの出会いをきっかけに転職して、警察官として身元不明人相談室の配属となった。 婚約者が行方不明になった真の苦悩は、『GO HOME』前半のストーリーの軸となっていた。もう慎一に会えないと分かっているのに、まだ生きていると信じたい気持ちと、安否を知り、前に進みたい気持ちが真のなかでぶつかりあう。慎一が行方不明になった福島県が事件に関わるたびに、真のふとした表情に「慎一がどうなったのか、どこにいるかを知りたいけど知りたくない」という相反する感情が滲む。表面上はクールで強気ながら、内面には弱さがあるキャラクターで、大島が演じてこそと思える役柄だ。 キャラクターが真実を求めて行動している場合、知りたいという感情のみで行動させる方が自然で、なおかつ作劇上も楽。しかし、人の生死に対しては知りたい、知りたくないの単純な二択にはならないのが、人間が持つ複雑さであり、そこがドラマ性にもなる。大島は、真の心の内にある繊細な葛藤、真実に迫ろうとしつつも慎一に関する情報を遠ざけようとする矛盾した言動を、丁寧に表現していた。 特に第4話の終盤、震災直後の慎一の行動が撮影された動画を見た時の反応には、大島の芝居の魅力が存分に表れていた。目を背けたり、手を震わせたりという仕草にも、真が長年抱えてきた苦しみが感じられ大島の身体全体から真が背負ってきた人生が溢れ出ていた。声を震わせながら慎一を確認しようとする姿、抑えきれない嗚咽を漏らす姿に、涙を誘われた人も多いだろう。 大島の芝居は、ふとした時の表情、仕草などこれ以上ないほどに自然だ。役柄を極限まで自分に引き寄せており、このキャラクターならそうするだろうという不思議な納得感がある。NHK連続テレビ小説『スカーレット』で演じた熊谷照子役では、地元の窯元の跡取り娘としての強気な性格、一方で主人公・喜美子(戸田恵梨香)への優しさや自身の立場を理解したうえでの諦念など、複雑な人間性をリアルに愛らしく表現。言葉では強気な照子がたまに見せる弱さのある表情や、強がったときの大袈裟な仕草などが照子のドラマをより深いものにしていた。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)では、主人公・栄一(吉沢亮)の後妻・兼子を演じ、栄一の感情を敏感に感じとっているからこその不安な思いと喜びを表現した。 大島は作品の時代背景や役柄の身分などがどのような設定であっても、人物のなかにある根源的な葛藤や感情を自分のものにして、セリフ回しや声色だけでなく、表情や仕草、目に宿る温度までも含めて表現する力がある。役が憑依するのではなく、どんな役柄も大島が持つ引力に引き寄せられ、大島のふとした表情、仕草にキャラクターが宿るのだ。 第4話以降、真はバディとして桜をたしなめつつも時に支え、背中を押すバディとしての活躍を見せてきた。大島らしいナチュラルな芝居が真の大人な振る舞いや目線に表れており、10歳差の同期バディという変わった関係に説得力を出しているのも、真の魅力に繋がっているだろう。『GO HOME』は最終章に入り、第9話では身元不明人相談室の堀口(戸次重幸)について調べることに。桜と真はどんな困難の末に、真実へと辿り着くのか。
古澤椋子