常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?
<「量子コンピューター」実用化に寄与する可能性>
工業用ダイヤモンドは、現在も合成ダイヤモンドが多く使われています。 ダイヤモンドカッターや研磨剤以外にも、レコードの針、歯科のダイヤモンドドリル、砥石などに使われており、電気絶縁性に優れた性質から自動車や電化製品の組み立て工場ではなくてはならない存在です。 さらに、今回の韓国研究チームの合成ダイヤモンドは、スーパーコンピューターを超える性能が期待される最新の科学技術「量子コンピューター」の実用化に寄与する可能性もあります。 量子コンピューターは現行のコンピューターとは異なり、量子状態を情報として扱います。量子メモリーを用いる量子中継で現在、有望視されているのは「ダイヤモンドNVセンター」と呼ばれる物質です。 ダイヤモンドNVセンターは、ダイヤモンド中の炭素のいくつかを原子番号が隣である窒素に置き替えた物質です。置き換わるとダイヤモンド内に空孔が生じて、そこに電子が集まり、量子メモリーとして扱えます。半導体の量子メモリー数ナノ秒程度しか量子状態を保持できないのに対して、ダイヤモンドNVセンターは数秒から数分にわたって量子状態を保持でき、しかも冷却の必要がありません。 韓国研究チームの合成ダイヤモンドは、一部の炭素がケイ素と置き換わり、「シリコン空孔カラーセンター」を作っています。共著者のMeihui Wang博士は「シリコン空孔カラーセンターを持つ我々の合成ダイヤモンドは、量子コンピューターや磁気センシングに応用できる可能性がある」と話しています。 「永遠の輝き」と称されて一大ブームとなったのは宝石品質の天然ダイヤモンドですが、合成ダイヤモンドが私たちの生活を次世代の科学技術で輝かせる原動力になる日も近いかもしれませんね。
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト/博士[理学]・獣医師)