ハンコをつくっているシヤチハタが、なぜ“尿ハネに会える”商品を開発したのか
「シヤチハタ」という会社名を聞いて、どんな商品を想像するだろうか。 「ハンコでしょ、スタンプ台でしょ、インキでしょ。うーん、だいたいそんな感じかな」などと思われたかもしれないが、このほかにもある。スタンプラリー用のディスプレイであったり、文章管理システムであったり、どろだんごであったり、さまざまな商品を扱っているが、本業はやはり「文具」である。 【画像】“トイレの悩み”をインキで解決? 300万円超の大反響! シヤチハタが考えた、驚きの「尿ハネに会える」スプレー(全14枚) しかし、である。シヤチハタはトイレの「尿ハネ」に注目し、その汚れが見えるスプレーを開発したのだ。商品名は「MIERUMO」(ミエルモ、一般販売予定:1380円)。スプレーの特徴は、トイレに吹きかけるだけで「尿ハネ」の場所が青く浮き出るというもの。応援購入サイト「マクアケ」でテスト販売(9月6日から11月4日まで)したところ、目標金額30万円に対し、10月17日時点で300万円を超えているのだ。 ミエルモのボトルの中には、着色剤と消色剤(次亜塩素酸ナトリウム)が入っていて、トリガーを引けばこの2液が混ざって噴霧する。尿ハネがないところは、着色剤の色を消色剤が消して透明になる。一方、尿ハネがあるところは、着色剤が残って青くなる仕組みだ。 このような話をすると「便利そうだな。トイレを掃除しても、くさいことがあるんだよねえ」などと感じられたかもしれない。繰り返しになるが、この商品を開発したのはシヤチハタである。ネーム印やスタンプ台などをつくっている会社が、なぜ「トイレの消臭」コーナーに並ぶようなモノをつくったのか。 同社で研究開発を担当している南田憲宏さんに、開発の裏側を取材した。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。
開発のきっかけ
土肥: ドラッグストアでトイレの消臭コーナーに行くと、「ファブリーズ」や「消臭力」などが並んでいますが、近い将来「ミエルモ」が置いているかもしれません。使い方を見ると「トイレに吹きかけるだけで尿ハネ汚れが青く浮き出て、拭き取り掃除ができる」などと書かれているわけですが、消費者は社名を見てびっくりするのではないでしょうか。 「シヤチハタ? あのハンコをつくっているシヤチハタなの? なぜ、こんなモノをつくったの?」と。そもそも、なぜ畑違いのような商品を開発したのでしょうか? 南田: 私は研究開発の部署に所属していて、普段はインキやゴムなどを担当しているんですよね。広い意味で「印(しるし)」の価値を考えたときに、見えないもの・見えにくいものを見えるようにするにはどうすればいいのか。こうしたことを考えているのですが、具体的にどうすればいいのか。抽象的なことばかり考えていて、どのような価値を提供すればいいのかよく分からなかったんですよね。 そうした日々を送っている中で、同僚がこのようなことを言っていました。「トイレを掃除したはずなのに、なぜか臭う」と。この話を聞いたとき、尿ハネが見えるようになれば、臭いの元になる部分をしっかり取り除けるのではないか。いろいろ調べていくと、同じような悩みを感じている人が多いことも分かってきました。であれば「シヤチハタのインキの技術を使って、臭いの元が見えるかもしれない」と考え、開発がスタートしました。 土肥: インキの技術を使えば、臭いの元が見えるかも……という意味がよく分からなかったですが、その前に質問がひとつ。「尿ハネが見えるようになる商品を開発するぞー!」と社内でアピールして、どのような反応があったのでしょうか? というのも、シヤチハタは文具メーカーですよね。開発を目指している商品は、本業とはかなり遠い位置に存在するモノと感じましたので。 南田: 大きく分けて「2つ」ありました。1つは「好意的」な声です。当社はハンコやインキなどをつくってきたわけですが、これまでの延長で商品をつくり続けても、明るい未来が待っているとは限りません。言われたことばかりをやっていればいいという時代でもないので、異分野に挑戦することに対して、好意的な意見がありました。 もう1つは「否定的」な声でした。尿ハネが見えるというアイデアは「おもしろい」というコメントが多かったのですが、その一方で「汚れはあまり見たくない」という意見もありました。 土肥: ハンコやインキなどをつくっている会社なので「尿ハネが見えるような技術を開発するのは難しい」という意見はなかったのでしょうか? 南田: それはなかったですね(きっぱり)。