難読ワードの「酸棗仁」は認知症予防に効果あり? 漢方薬原料で食品開発目指す おおさかラボ
6年先の2030(令和12)年、厚生労働省のデータによると、高齢者の7人に1人に当たる全国523万人が、認知症を患っていると推計される。経済損失は約9兆円に達するとの試算もあり、発症を抑えるための対策は急務だ。大阪公立大の富山貴美(たかみ)特任教授は、東洋医学の生薬などを使った安全かつ安価に摂取できる予防食品の開発を目指している。 認知症は、異常化したタンパク質「タウ」や「アミロイドベータ」が脳内に蓄積し、神経細胞を徐々に死滅させることで進行する。いったん死滅した神経細胞を元に戻すことはできないため、進行を遅らせる治療薬の開発が進むものの、高価な上、投与対象が軽症者に限られる。 こうした状況を踏まえ、富山氏は予防の重要性に着目。漢方薬を構成する生薬の一つ、「酸棗仁(さんそうにん)」といった自然由来の素材に目をつけた。「こうした素材を使った認知症予防食品であればサプリメントのように病院の受診なしで購入でき、負担減につながる」と説明する。 商品化に向け、5年前から総合化学メーカーの帝人(大阪市)と共同研究を実施。生薬の効果を確認するために認知症のマウスに投与する実験を重ね、認知機能や運動機能がどれくらい改善するかを調べた。 実験では、酸棗仁の粉末と煮出したエキスをそれぞれ1カ月間ずつマウスに投与。その後、水を張った実験用プールに放し、水面に隠された足場を見つけるまでにかかる時間を計測した。 いずれのマウスも、脳の状態と認知機能の改善が認められ、粉末を投与されたマウスの方が効果が高かった。さらに認知機能は、正常なマウスと同じ程度かそれ以上にまで改善した。 次に富山氏は、健康な高齢マウスに対し1カ月間、酸棗仁の粉末を投与したところ、細胞の老化が抑制され、認知機能も若いマウスと同じ程度まで向上したことが確認された。 富山氏は「酸棗仁には、認知症を予防して脳を若返えらせる作用があることが示された」と実験の意義を語る。ただ生薬の有効成分が何なのかは分かっておらず、今後特定を進めるという。 来年以降に予防食品を商品化したい考えで、富山氏は「認知症発症の抑制にどれほどの影響があるかを確認するための手法を確立しなければならない。課題はあるが、前向きに開発を続けたい」と話している。(小川恵理子)