凍結後30年経っても蘇生・繁殖 「最強生物」クマムシの秘密とは?
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先月、「約30年半も凍結されていたクマムシが蘇生した」という驚くべきニュースが駆け巡った。国立極地研究所が発表した成果で、蘇生したクマムシはその後、繁殖も行ったという。人間では、絶対にありえないことだ。そのタフさから「最強生物」とも言われるクマムシとは、一体どのような生物なのだろうか。
クマムシが持つ「クリプトビオシス能力」とは
「クマムシは、『緩歩(かんぽ)動物』という生き物で、体長0.1mmほど。足は4対あり、顕微鏡をのぞくと、のしのしと歩いているのがわかります」と説明するのは、同研究所の辻本惠特任研究員。今回の成果をあげた研究グループにおいて中心的な立場の研究者だ。 「最強生物」たるゆえんは、クマムシが持つ「クリプトビオシス能力」にある。この能力は、凍結や乾燥といった厳しい環境にさらされた時、新陳代謝をやめて活動を停止する力のこと。 水を吸わせれば蘇生、回復して活動を再開することが可能だが、辻本研究員によると「ポーズボタンを押しているようなもの」で、寿命そのものが伸びるわけではないという。クマムシのほか、ワムシやネムリユスリカもこの能力を持っている。今回の研究目的は、これらクリプトビオシス能力を持った動物の驚異的な長期生存メカニズムの解明に貢献することだった。 辻本研究員らの研究グループは、1983年11月に南極の昭和基地周辺で採集され、約30年半ものあいだ-20℃で凍結保存されていたギンゴケの試料3点からクマムシを取り出した。コケを解凍、給水したのち、クマムシを探したところ、死んでいる個体もあるなかで、生きている可能性のある2つの個体と1つの卵を見つけることができた。 2つの個体のうち、1個体は十分に回復せず途中で死んでしまった。しかし、残る1個体は時間がかかったものの、歩き回って餌を食べるなどの通常状態に戻っただけでなく、繁殖も行い、卵は孵化した。「うれしかったですねえ、興奮しました」と辻本研究員。 「南極」と聞くと、クマムシとはさぞ珍しい生き物なのかと思いきや、実は世界中に広く分布している。陸上だけではなく海中にも存在する。意外と身近なところにも住んでおり、たとえば、アスファルトの道路のすき間や、古い塀の上に干からびたコケがあれば、その中にはたくさん生息している可能性があるという。