【ライブレポート】Laika Came Back、チケット即完売のPLEASURE PLEASURE単独公演
車谷浩司のソロプロジェクトLaika Came Backが、5月11日渋谷PLEASURE PLEASUREで単独公演「風の中で」を開催した。毎年の恒例となっていた5月の単独公演は、コロナ禍でのお休みを経て昨年約4年ぶりに再開となった。「再会の時」と冠した昨年のライブは、コロナ禍という先行き不透明な時を共に経験した観客たちとの邂逅、音楽がもたらす活力や喜びに触れるエモーショナルなステージにもなったようだが、今回は心地よい緊張感と同時に車谷の朗らかな人柄が会場を覆うような、そんな一夜となった。 【全ての画像】『Laika Came Back コンサート“風の中で”』ライブ写真 たくさんのLEDキャンドルの灯りがゆらめくステージに、相棒となるアコースティックギターを携えて登場した車谷浩司。観客が息を飲んでその動向を見つめるなか、静かにギターを爪弾くとルーパーでフレーズを重ねながら1曲目「桜花」を紡いでいく。《あした 晴れたら どこに行こう》と口ずさみ、久しく会っていない家族や昔馴染みに思いを馳せる「桜花」、そして続いたのはほろ苦い思い出に触れるような「天空の彼方」。ひと続きの物語のように叙情的に語りかけ、歌われた2曲は、キャンドルのほんのりとした明かりとスポットライトのみというシンプルなステージと相まって、芝居の舞台のようだ。 車谷の静かなモノローグとギターサウンドで、何もない暗幕に情景が浮かび上がってくる。観客はそんな感覚を味わっただろう。ギターの余韻までじっくりと堪能した観客から、温かな拍手が湧いた。「ありがとうございます。どうもこんばんは、ようこそおいでくださいました。昨年に続き、今年も渋谷PLEASURE PLEASUREのステージに立つことができました」と挨拶をすると、最後までゆったり、ゆっくりと楽しんでほしいと、続くブロックへと滑り出していった。
ここからはさながら旅へと出ていくムードだ。リズミカルに奏でるギターに合わせて、足元にはめた鈴を鳴らしながら軽やかに声を弾ませる「朝凪の色」、五十音の柔らかで優しい響きと“ありがとう”“いただきます”“うれしいな”など一言のなかに誰かを思いやる気持ちがこもった言葉が並んだ「あいうえお」に会場の空気感がどんどんほぐれていく。そしてここからLaika Came Back、車谷浩司の真骨頂。ギター1本で色彩あふれる広々としたランドスケープを描き、そこに流れる風や香りをも感じさせる、ひとりアンサンブルを響かせる。「新緑の候」では体でリズムをとり、ルーパーでリズムやアルペジオ、コードを重ねたサウンドと伸びやかなボーカルで、観客をゆったりとした旅へと連れ立っていく。 ループするリズムやコードが呼ぶ恍惚感に、アクセント的に差し込まれるフレーズが美しくきらめく。この約10分にわたる色鮮やかな曲から、さらにアンサンブルの醍醐味やリズムとフレーズとのポリリズムが生む心地よさが味わえる「The Bears」へとなだれ込んでいく。さらに、同じアコースティックギター1本でありながら、まるでエレキのようなノイジーさを生む「Southern Cross」では、マイクスタンドにギターの弦を擦ったり、音を歪ませたりとロックバンドのように重厚なサウンドを響かせて、会場をダイナミックに飲み込んでいった。心地よい風に吹かれるような甘美な歌と、ギター少年の顔をのぞかせるアグレッシヴなプレイに、観客は大きな拍手を送った。 「楽しんでいますか。いいですね、ステージは」と、改めて満員の観客とこのひとときを分かち合う喜びを語った。世間的には知られてないミュージシャンなんですけどね、なんて言いつつ、それでも年一回のこのライブは瞬時にチケットが売れてしまうのは信じられない、ありがたいと言う。2010年にこのLaika Came Backが始動してからはメディア等への出演はなく、音楽制作とライブ活動でその声や思いを届けている。ライブも近年はこの5月に行ってきた単独公演が主で、年に一度、音楽はもちろん近況を報告するような場にもなっている。今回のライブでは、車谷が子どもの頃から大好きなアーティストで、プロのミュージシャンとしてのロールモデルにもなっているという財津和夫、チューリップの最後のコンサート50周年記念ツアーのチケットがなんとか取れて(仙台公演だったという)、ようやくライブに行くことができたと嬉しそうに話した。自身もチケットを取ってライブに行く楽しさや喜びがわかると語り、「今は、“推し”っていうのかな。僕もあなたたちの“推し”になりたいと思っています」とお茶目に笑う。というMCから、車谷の推し、チューリップのデビュー曲「魔法の黄色い靴」(1972年)をカバーで披露した。