「戦争の時代」となってしまった「2024年」を「地政学」の観点から振り返る
2024年も数多くの戦争が世界中で続いた。過去数年の間に、世界の戦争の数は、急激に増えた。それを受けて、2024年にも、多くの戦争が続いた。 【マンガ】バイデンよ、ただで済むと思うな…プーチン「最後の逆襲」が始まった ヨーロッパにおけるロシア・ウクライナ戦争、中東におけるガザ危機やその他の複合的に重なり合う戦争、アフリカにおける東から西に貫くアフリカの角からサヘルにかけての一帯で多発している数々の戦争、などが甚大な被害を出している。もちろん、アジアではミャンマーの状況が深刻だ。凶悪犯罪の犠牲者数を考えると、ラテンアメリカ諸国の状況も深刻である。 10年ほど前までは、まだ国際的な平和活動も活発だった。戦争の数もなんとか抑え込まれていた。だが2010年代以降、戦争の数は増加し続け、国際的な平和活動の数のほうは減少し続けている。厳しい状況に、対応が追い付いていないだけでなく、追いつこうとする政策的意欲も萎えてしまっているような事態だ。 この現代の戦争の時代を、どう見ればいいだろうか。本稿では地政学の理論の観点を用いて、大局的な視点から、整理を試みてみたい。
英米系地政学理論に依拠した「海洋国家」連合と「リベラル国際秩序」
35年ほど前、冷戦が終わった時、「自由民主主義の勝利」を前提にした「新しい国際秩序」なるものが語られた。あれはいったい何だったのか。 冷戦終焉は、東欧の共産主義政権の崩壊と、ソ連の崩壊によって、引き起こされた。 自由主義陣営と共産主義陣営の対立が、冷戦だったとすると、一方の陣営の崩壊によって、それは終わった。そこで、国際社会が標榜する価値観は、自由民主主義の価値観に収斂していき、それによって各国の政治体制も、国際的な経済体制も、より普遍主義的で一元的なものに刷新されていく、と感じられるようになった。 もちろん、共産主義陣営が崩壊したからと言って、自由主義陣営が普遍的に万全で問題がないことが保証されたわけではない。だが当時は、「自由民主主義の勝利」の物語にそって、「新しい国際秩序」=「リベラル国際秩序」が、イデオロギー対立のない冷戦終焉後の世界にも広がっていく可能性が高い、と広範に信じられた。 確かに、旧ワルシャワ条約機構の東欧諸国は、その後、NATO(北大西洋条約機構)の同盟網に加わり、自由主義陣営は、拡大した。だが、だからといって、世界全体が自由主義を標榜するようになったわけではなかった。まして全ての諸国が欧米諸国の同盟国になったわけでもなかった。 「リベラル国際秩序」とは、自由民主主義が普遍化した国際秩序というよりは、自由主義陣営諸国の影響力が高まった国際社会の秩序のことであった。それは、欧米諸国の介入主義的行動を強く要請して、成り立つものであった。 アメリカを中心とする自由主義陣営の諸国の結びつきは、地政学理論にそって言えば、「海洋国家」が結びついたネットワークのことだ。ハルフォード・マッキンダーに代表される「英米系地政学理論」の伝統にそって言えば、冷戦構造とは、ユーラシア大陸中央部の「ハートランド」に位置しつつ、海に向かって膨張政策をとってくる「陸上国家」を、「海洋国家」連合が封じ込めていく構造のことであった。冷戦終焉後の「リベラル国際秩序」とは、「陸上国家」の膨張が止まった後、「海洋国家」諸国がより自由にグローバルに影響力を行使するようになった時代の秩序のことであった。