マンションで半導体製造も 超小型ウエハー使う「ミニマルファブ」 多品種少量で参入後押し
TSMCの熊本工場建設やラピダスの北海道進出など、大規模な半導体生産に向けた動きが国内で加速する中、投資額を1000分の1程度にまで抑えられる多品種少量の生産モデル「ミニマルファブ」に注目が集まっている。旗振り役であるミニマルファブ推進機構(茨城県つくば市)が、国内最大規模の先端技術の総合展「CEATEC」に初出展。想定ユーザーの来場を期待し、さまざまな企業にアピールした。 【関連写真】ミニマルファブで使う12.5ミリメートルの超小型シリコンウエハー ミニマルファブは、半導体工場の建設に必要な設備投資を大幅に抑える新たな生産システム。半導体生産に必要なシリコンウエハーは通常直径300ミリメートルだが、ミニマルファブで使うのは12・5ミリメートルと超小型。「シャトル」と呼ぶウエハー周辺だけをクリーンに保つ局所クリーン搬送技術で、クリーンルームの整備も不要だ。 1台2000万~3000万円する装置を20~100台設置し、生産工程を整備する。回路線幅は0.5マイクロメートルと成熟したプロセスながら、多様なセンサーを必要とするIoT機器の開発用途など、多品種少量生産が合致する分野でミニマルファブは生きると見る。 2兆円かかる半導体工場の投資額を5億円程度に抑制でき、中小企業やスタートアップ企業の半導体事業への参入障壁を下げることにもつながる。装置は100Vの家庭用電源で稼働できるため、マンションの一室からでも半導体製造を始められることをうたう。 小規模化しても生産工数は変わらないが、製造プロセス技術やウエハーの規格、装置サイズなどを標準化・共通化し、一気通貫で半導体を少量生産できるようにしている。 膨大な数の半導体の製造工程を規格化して進めるため、産業技術総合研究所を母体とするミニマルファブ推進機構が社会実装に向けた研究開発を主導。2017年に設立し、会員企業は現在145社。同機構の斉藤諭氏は「ミニマルファブは半導体の世界観を変えるイノベーション。だからこそ、業界の壁を超えて取り組むべき」と話す。 これまでも半導体関連企業が集まる展示会「SEMICON Japan」には出展してきた。総合展であるCEATECに出展することで、ミニマルファブで製造した半導体の想定ユーザーに存在をアピールしたい考えだ。 ミニマルファブ推進機構は、半導体人材の育成支援にも力を入れており、CEATECを学生に向けたアピールの場とも位置付ける。 半導体に関する応用技術を学生が学ぶ機会は限られており、業界では人材育成が課題になっている。そこで、学校への導入コストが小さいミニマルファブを利用し、半導体製造を実習で学べる機会を提供していく。 国内の高等専門学校の半導体教育の拠点校である佐世保高等専門学校では、すでにミニマルファブを導入しており、今年度中に半導体を製造できる設備がそろう予定。佐世保高専電気電子工学科の猪原武士准教授は「ゆくゆくは高専ロボコンに自分たちで作ったチップを載せるところまでいきたい」と語る。 ミニマルファブ推進機構も、革新性ゆえに受け入れられにくいミニマルファブを若い世代にアピールすることは重要だと考える。斉藤氏は「ミニマルファブの革新性を、まずは教育現場から浸透させたい」と力を込める。 現在、半導体業界では中国で大規模な設備投資が進んでいる。ミニマルファブによる生産システムは、大量生産とは一線を画す、多種多様なニーズに応える半導体生産の新たな在り方と言えそうだ。
電波新聞社 報道本部