捕獲した際、ふたりがかりで船のデッキから引き剥がし、持ち上げてみた。粘液まみれになった防寒着は引退。

今回は日本の怪魚…いや北国の春の風物詩である、巨大軟体生物のお話。バカバカしいほどにデカいだけでなく、刺身で食べると最高に美味い、あの海の生物である。 【画像】せっかくなので握手してみた。火星人のような生物と、筆者。

タコ類最大の怪物は秋田の防波堤に接近中！

2017年の3月末、この哀れな語り部（←筆者のことです）は新宿から夜行バスに乗った。『海の怪魚釣りマガジン』（地球丸刊）の取材で、怪魚ハンターの第一人者であるTさんを訪ねて故郷の秋田に向かったのである。東京はすっかり桜も咲いていたが、秋田に到着すると…まだ空も地面もグレーな雪景色だった。遠くへ来たのだ。 すぐに、Tさんと秋田港で合流し、遊漁船ROKUZOU（大友純一船長）で出港した。他には神奈川から軽バンで来たという強者なFさんも同船。彼はすでに13kgのミズダコを釣っているという…。見ると…自分の知っているタコではない。頭（ではないが…）は人間サイズ。身体も入れると火星人サイズだ。 船は外洋に出る…のではなく、そのまま秋田港の堤防沿いにゆっくりと流し始めた。怪物は近くにいる。 ミズダコ。タコ類最大種で、冷たい北の海を生息域とする。最大記録は全長9.1m、体重272kg…といわれるが、巨大化するといわれるカナダ近海でも3.5mになればかなりの大型。日本近海ではそこまでのサイズはあまり聞かない。秋田では20kgを超えれば大物である。 Tさん「秋田だと1月後半くらいから深い海より産卵に上がってくる。それが2～3月に本格化して、4月半ばには産卵を終えて戻っていく感じですね」 堤防に沿ってゆっくりと船を流し、タコテンヤと呼ばれる擬似餌でボトムを感じながらズルズルと引いていく。たまにフワっとさせたりシェイクもするが、基本はズル引き。 Tさん「怪しい感触がしたら、タコにしっかりテンヤを抱かせるためにロッドで振動を加える。アタリを感じたら竿先を水面まで下げてゆっくり、ムニュムニュ～っと合わせます」 しばらくするとTさんにアタリあり。グググっと合わせてからぐりぐり巻くと…水面に大きな紅い花が開いた。ミズダコだ！ Tさん「アタリはただ重くなるだけです。ゆっくり引っ張ってみて、柔らかいならタコです」 語り部も撮影の合間に釣りをしてみると…その通りのアタリがきた。これまでの釣り人生で一番ゆっくりと、グ…グ…ググっと合わせると…ロッドに重みを感じる。 Tさん「タコです。絶対タコです！」 船長「巻いて巻いて！ 止めないで！」 正直、重いけど引くというわけではないな…と思いながらだったが…水面に現れた物体はあまりに巨大！ Tさん「うおおおお、デカい！」 船長「これは20kgオーバーだよ！」 まさか、この日までのシーズン最大タコがこの哀れな語り部に釣れてしまった。デッキに横たわる巨体、あまりの大きさで陸上ではうまく動けないようだ。ふたりがかりで足を引き剥がし、なんとかこの怪獣を撮影することができた。 【画像】釣り上げた直後のミズダコ。成長する過程で何者かに襲われたのか、2本の足（写真右側）が失われていた。 【画像】ふたりがかりでデッキから引き剥がし、持ち上げてみた。粘液まみれになったこの防寒着はこれにて引退。 【画像】こんな感じで、防波堤沿いを流していく。待ちながら攻めるようなルアーフィッシングである。 【画像】Tさん自作のテンヤの一例。市販のテンヤのカニの模型をダイソーのカエルのおもちゃに変更。白い捻りワイヤーは根がかり防止のガードだ。　 【画像】防波堤に張り付いたタコを目視で見つけて、サイトフィッシングも楽しい。ただ、この釣り方は数が出るけれどもサイズは15kgクラスまでらしい。 【画像】サイトで有効なルアー。オモリを支点にアメリカンクラッカーのように2匹のエビをフワフワさせる。 【画像】堤防に張り付いていたところをアメリカンクラッカータイプで誘われ…辛抱たまらず抱きついたタコさん。サイトだとこのサイズが中心。 【画像】この日はなんとガイド開業以来の大漁だったらしく…3人で93kgを水揚げした。食べ切れる分だけ持ち帰ることに。 【画像】ミズダコと私（身長179cm）。ミズダコは全長216cm、重量24kg。ここまで大きくなると獣を解体しているような重労働だった。刺身にして、秋田の出汁醤油でいただくと…美味い！ 淡白なだけでなく濃い旨味を楽しめた。 【画像】吸盤はおよそ全長5cmもあった。ヒット後に本気でボトムに張り付かれてしまうと人力で引き剥がすのは難しい。