「子どもを叱ること」に潜む依存性の怖さ なぜ負のループから抜け出せなくなるのか?
他人を変えようとせず、自分が変わる
【中原】その「叱る」ループに、僕自身、保護者としてハマりかけたことがあります。 息子が思春期のころ、息子のある行動が気になり、よく叱っていた時期がありました。叱った直後はちょっとシュンとしているものの、結局何も変わらない。だからまた叱る。「叱る→変わらない」「叱る→変わらない」「叱る→変わらない」という不毛なやりとりを繰り返していました。自分自身、いいかげんこれではダメだとわかりそうなものなんですが、そのときは感情が支配しているのでループから抜け出せず、しばらく同じことをつづけていたんです。 ただ、さすがに気がつきました。対人関係において、数回、相手に対して行動してみて、相手が受容してくれないものは、いくら、繰り返してもダメなのです。アプローチを変えなければならない、と。すぐに思ったのは「息子を変えようとしないこと」です。「これ、息子を変えるんじゃなくて、自分が変わったほうが早いんじゃないか」と思ったんですね。相手のことは変えられなくても、自分なら変えられる、と。そこで僕自身が姿勢を切り替えることにしたんです。「もうこのことで叱ることはない。ただお前が変わろうとする気があるなら相談にのる」と言って、叱るのをパタリとやめました。 すると、彼に変化が起き始めました。結局、定着するまでは1年くらいかかりましたけど、でも、その間は何も言わなかった。自分でやり方を決めて、自分で実行することになりました。あのままループにハマっていたら、僕も〈叱る依存〉になりかねなかった、気づけてよかったという体験があります。他人を変えようとせず、自分が変わる。自分が変われば、対人関係においては、相手が自ら変わることもある。そういうことなのかな、と思います。
誰でもハマる可能性があるということを自覚する
【村中】負のループって、誰でもハマる可能性があるんです。〈叱る依存〉というのは一部の人だけがなってしまうものではない、人にはそういう心性が備わっているということに、私たちは自覚的である必要があります。
村中直人