日本の離婚法は、国際標準の「現代」が実現できていないという「残念な現実」…「DV等被害者の人権」が国家によって守られる海外との「極端な違い」
政治家の横暴
共同親権に関する改正準備作業については、離婚経験のある男性側が自民党の一部に強く働きかけたのがきっかけで始まった側面がある。そして、2022年8月には、自民党の法務部会が、法制審議会の「中間試案」の取りまとめの段階で、「単独親権制維持と共同親権導入の両論併記とする案はわかりにくい。原則共同親権であるべきだ」などと文句を付け、その結果、法制審議会家族法制部会による中間試案の取りまとめが三か月遅れるという異例の事態となった。 しかし、法制審議会への諮問の結果として出てきた案についてであればともかく、中間試案の取りまとめ段階、つまり未だ審議中の段階で、政治家がその内容を気に入らないとしてくちばしを容れるのは、専門家や世論の代表者等から構成される法制審議会部会の審議の方向性を左右しようという傲慢な態度というほかなく、きわめて異例のことなのである。 さらには、中間試案についてのパブリックコメント(意見公募)のためのサイトに掲載された法務省作成の資料(本来法務省が中立の立場で作成すべきもの)についても、共同親権推進派の自民党議員が作成にかかわっていたことが判明するという、これまた異例の事態が続いた。このような関与も、手続的な公正さを欠き、不適切であろう。 国会議員は、本来、本当の意味における国民の代表者として、公正、誠実、透明に政治家としての責任を果たすべきであるにもかかわらず、こうした行動を平然と行い続けるのは、信じがたく、唖然とするほかない。特に、前者の行為は、まるで、「後進国の出来事」である。法律家、学者として、「自民党の、政治家の劣化は、ここまで進んでしまっているのか?」との危機感をもたざるをえない。なお、この危機感は、私だけのものではなく、法律家、学者たちに一般的なものである。
改正法の含む問題
さて、前記の改正法は、「離婚後共同親権の希望がある事案についてだけは必ず裁判所が離婚の時点で関与する」という私見とは異なり、これを原則当事者の協議にゆだね、家裁の関与は、「問題がある場合の関係当事者による親権者変更の申立て」を待っての二次的なものにとどめている。しかし、このような制度によって、力の弱いほうの配偶者が離婚を成立させるために共同親権を受け入れさせられる事態がほぼ避けられるのか、いささか疑問を感じる。 私見を含め、協議上の離婚をする際には親権者の定めに関して中立的な第三者の関与を経なければならないとする考え方につき、法務省は、立法準備作業の最終段階において、以下のような説明をしている。 「そのような仕組みを設けることは、協議上の離婚の要件が現状よりも加重され、国民に大きな影響を与えることなどから、慎重な検討を要するとの意見があった〔したがって採らなかった〕」(「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台」補足説明) だが、これでは、ほとんど説明になっていないように思われる。要するに、「家裁の負担が重くなるからできない」というだけのことなのではないだろうか。 家裁事件数は、増加している事件は形式的な内容のものが多いとはいえ、近年増加傾向にある。私が裁判官だった十数年前には家裁裁判官はかなり余裕があり、定時に仕事が終えられるような状況だったが、今では、あるいは違うのかもしれない。しかし、私は、現在の家裁でも、私見によるようなかたちの関与、確認事務についていえば、その気になれば、可能ではないかと考えている。たとえば、上の事務については、弁護士から期間を限って採用する家事調停官(家事事件手続法二五〇条、二五一条)にも行わせることを可能にし、かつその数を増やすなど、若干の制度的な措置さえ採ればよいのである。 いずれにせよ、共同親権制度の運用については、家裁の主体的、積極的な姿勢が試される。その施行後に、改正法による家裁の事後的な対応では不十分なことが明らかになった場合(多くの被害者が出た場合)には、そのこと自体大きな問題であるのみならず、現在でも相当の批判のある日本の家裁のあり方に対する人々の信頼がさらにそこなわれる結果になりかねないからである。 * さらに【つづき】〈配偶者の不貞の相手に慰謝料を請求するのは、「配偶者をモノのように支配している」との思想から!? 「不貞慰謝料請求肯定論」の根底にある「配偶者は自分の所有物」という考え〉では、不貞めぐる法意識について、くわしくみていきます。
瀬木 比呂志(明治大学教授・元裁判官)
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