英国が新潮流を作るデザイナーを輩出し続ける理由 若手発掘の第一人者サラ・モワーに聞く
「こうした事実を表面化させ、ファッション好きを教育し、よりダメージの少ない新しいシステム作りに取り組むデザイナーには、フィービー・イングリッシュ(Phoebe English、再生可能な手法、廃棄物ゼロ、プラスチックの排除)、リチャード・マローン(Richard Malon、アップサイクル素材を使用した受注生産モデルへ移行)、プリヤ・アフルワリア(Priya Ahluwalia、インドとナイジェリアで目撃した、繊維廃棄物の投棄と黒人・褐色労働者の搾取を暴露)、ヘレン・カーカム(Helen Kirkum、チャリティー団体から回収した廃スニーカーをスニーカーの“リマスタリング”に使用)がいます」。
ロンドンの若手デザイナーにとってデッドストックの素材を使うことは当たり前になっている。「今日、彼らは総じてセクシーで完成度の高い服を作っていると自認していて、持続可能な実践としてのラグジュアリーファッションを再定義しています」。
30年続く「ニュージェン」の応募基準は、ここ数年でわずかに変わっただけだという。「傑出した才能と経済支援の必要性、そして2社以上の取引先(またはeコマース)を持っていることに加えて、最近では、デザイナーがサステナビリティ基準に準拠しているかどうかも問われます」。
欧州を中心に、アパレルメーカーに対しての法規制が厳しくなっていることに対しては「ニュージェンにはビジネスや法律の重要な側面に関する指導やワークショップのセッションも含まれています。パネルメンバーには、サステナビリティやその他の専門分野に関する業界の専門家が含まれており、彼らは喜んで無償の指導を提供しています」。
多くの才能あるデザイナーを輩出してきた一方、多くのデザイナーが廃業にも追い込まれてきた。「そう、デザイナーは時代とともに創業と廃業を繰り返してきました。そして今日、業界全体が知っているように、卸売業と小売業が崩壊し、残酷なまでに厳しい時代になっています。しかしBFCは、数年後に自身の名を冠したブランドを閉じた『ニュージェン』のデザイナーたちのキャリアについて調べた結果、彼らの多くがインテリア、映画、コスチュームデザイン、アメリカやヨーロッパの大企業のトップポジション、その他多くの関連クリエイティブ産業へと転身していることがわかりました」。ファッション産業で廃業したからといって、クリエイティブである限り、クリエイティブ産業の別分野でも活躍し続けることができることがわかる。「これが、イギリスが国際的にファッション業界に貢献していることだと思います。私たちは、クリエイティビティこそが私たちのスーパーパワーであると信じています」。
運転資金の少ない若手の先進的で実験的な創作活動を継続して支援するには、都市の余白―若く資金に乏しいが意欲ある人材が活動し、交流するための廉価に賃貸可能な物件の集積地など―が必要になる。例えば英国のファッション産業では、古くはロンドンのカーナービーストリートやカムデンマーケットでファッションの新しい潮流が生まれたが、近年ではブリックレーンやオールドストリート、ハックニーまで拡張している。このような若手デザイナーが事業を起こせるような都市の余白を引き続き利用できるのであれば、英国のクリエイティブ産業は今後も注視していく必要があるだろう。