アングル:シリア政変でイラン失墜、「力の空白」が生む次のリスク
Samia Nakhoul Andrew Mills [ドーハ 9日 ロイター] - シリアの反体制派の攻勢でアサド大統領が失脚し、中東におけるイランの影響力は失墜した。一方でイスラエルと米国、アラブ諸国はアサド氏に代わる勢力がモザイク状に広がる不安定さと、過激主義が台頭するリスクに対処しなければならない。 父親の代から50年余り続いたアサド一族による支配を崩壊に追い込む主導的な役割を果たしたのがシャーム解放機構(HTS)だ。以前はアルカイダと連携していたイスラム教スンニ派のグループで、米国と国連からテロ組織に指定されている。 3人の外交官と3人のアナリストはロイターに対し、HTSが主導する反体制派連合がアサド政権に代わって強硬なイスラム主義政権を樹立するか、過激派勢力の復活を阻止できる可能性が低いか、そうした流れになるのではないかと西側諸国とアラブ諸国は懸念していると述べた。 中東を専門とするシンクタンク、ガルフ・リサーチ・センターのアブデラジズ・アルセイガー所長は「アサド政権の突然の崩壊が引き起こすかもしれない権力の空白に対する強い恐怖が域内外にある」と指摘。例として2003年にフセイン政権が崩壊した後にイラクが、11年のカダフィ大佐が失脚した後にリビアが内戦に突入したことを引き合いに出した。 この地域に駐在する西側諸国の外交官はロイターに対し、反政府勢力が分断され、さまざまな宗派や民族に分かれており、それぞれが地域に権力基盤を持つ複雑な国となっているシリアをどのように統治するか計画はないと説明した。 同外交官は、シリアでの無法状態が、過激派組織「イスラム国」(IS)のような過激派がシリアで台頭する恐れがあると警告した。ISは14年にシリアとイラクの大部分を席巻し、19年までに米国主導の連合軍によって追われるまでカリフ制国家を樹立した。 バイデン米大統領は今月8日、アサド政権の崩壊を歓迎し、独裁的に支配した「責任を負うべきだ」と訴えた。一方でアサド氏の退陣は「リスクと不確実性」が始まった瞬間になったと警告した。米軍は8日、ISが再興するのを防ぐためにシリアで数十回空爆をした。 反体制派の攻勢開始からわずか2週間でアサド氏が退陣に追い込まれたことは、米ホワイトハウス関係者の多くを驚かせた。ある米政府高官は、米国はHTSだけでなく、全ての反体制派と意思疎通を図る方法を模索していると明らかにした。 米国はこれまで、クルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」といったシリア北東部を支配地域とするクルド人グループを主に支援してきた。しかし、これらのグループは、クルド人の影響力拡大に反発するトルコが支援する「シリア国民軍(SNA)」と対立している。 アサド政権を軍事支援してきた同盟国だったイランとロシアは、アサド氏の突然の失脚がもたらす広範囲な影響に直面している。 アサド氏とその家族の亡命を受け入れたロシアは、中東の拠点としてシリアに2つの主要な軍事基地がある。 イスラム教シーア派が大勢のイランにとってアサド政権との同盟関係は、イランを警戒するイスラム教スンニ派が大多数を占める地域での権力基盤の要だった。 イラン政府高官は9日、ロイターに対して「敵対的な軌道を防ぐ」ために反体制派グループらと直接連絡を取れるようにしたと語った。 イスラエルのネタニヤフ首相は、アサド氏の失脚を「歴史的な日」とたたえた。ネタニヤフ氏はイスラエルの安全保障を確実にするため、イスラエル軍に対して国境沿いの緩衝地帯を占領するよう命じたことを明らかにした。 イスラエルの外相によると、敵対勢力の手に渡るのを防ぐために化学兵器やミサイルがあると疑われる場所をイスラエル軍が9日に空爆した。 イスラエルのテルアビブに本部がある国家安全保障研究所(INSS)のカーミット・バレンシ上級研究員は、シリアの混乱と暴力が長期化するリスクはあるものの、アサド政権の崩壊はイスラエルに利益をもたらす可能性があると指摘する。 バレンシ氏は「国境付近の過激派勢力の台頭や、明確な権力者が不在になることが懸念されるものの、反政府勢力の軍事力はさまざまな形態があるにせよ、イランやその代理勢力に匹敵するものではない」との見方を示した。