世界経済の中期見通し③:リーマンショック後の設備投資抑制が影響
資本ストックの成長寄与度の低下は、近年ではなく、2008年のリーマンショック後から始まっていたことを示している。さらに先進国については、2000年代初頭から低下傾向が続いている(図表3)。 企業が設備投資を抑制し、資本ストックの増加率が低下すると、それは潜在成長率を低下させる。さらに、企業が投資全体を抑制することで、新たな技術が生産活動に迅速に反映されなくなり、TFPの成長寄与度の低下もあわせて生じさせる可能性が考えられる。 リーマンショック後のTFPの成長寄与度の低下傾向には、成長期待の低下を映した企業の設備投資抑制の影響もあるだろう。
リーマンショックで設備投資は大きく抑制
企業の設備投資と成長率とは相互依存関係にある。リーマンショックなど大きな経済ショックを受けて企業の売上及び生産が落ちると、企業は設備投資を抑制する。またそうした設備投資の抑制が短期的に需要面から成長率を抑制するばかりでなく、資本ストックの増加率を低下させることで、潜在成長率、中期成長率を低下させることになる。IMFの推計によると、生産の1%低下(設備投資の変化の影響を除く)によって、設備投資は2%程度低下する傾向がある。 リーマンショックが世界規模で企業の設備投資を抑制する大きなきっかけとなったことは疑いないところだが、それは一時的な経済活動の低迷によるものだけではない。IMFの分析によると、2008年以降に投資率が先進国、新興・中所得国ともに2%低下した要因のうち、トービンのQ (株式市場 で評価された企業の価値÷資本ストックの再取得価格)と借り入れの2つが、成長率の低下以上に、投資率の低下に寄与している。 これは、リーマンショックをきっかけに、株価が低迷したことが企業の設備投資を慎重にさせたこと、金融仲介機能が低下し、企業が銀行あるいは市場から資金を借り入れることが難しくなったことが、投資率低下をもたらしたと考えられる。このように、リーマンショックは、企業の設備投資活動、そして成長率のトレンドに及ぶまで非常に大きな影響を与えるイベントとなったのである。 一方、新型コロナウイルス問題、ウクライナ紛争、それらを受けた世界的な物価高騰、大幅金融引き締めが企業の投資活動や潜在成長率にどのような影響を及ぼすのかは、今の時点ではなお明確でない。しかし、少なくとも企業の設備投資活動をより活性化させ、潜在成長率を明確に押し上げるといった要素を多く見出すことはできない。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英