「請求書の不備を見つけ再送依頼」までAIが自動処理 UiPathは“エージェンティック”への進化目指す
「“エージェンティックオートメーション”は、RPAの進化した形だと考えている」。UiPathが、新たな製品戦略に基づく「Agent Builder」など多数のツール群をリリースした。自律的にアクションを行うAIエージェントを組み込むことで、プロセス自動化の対象領域を拡大していく方針だ。 【もっと写真を見る】
「“エージェンティックオートメーション”は、RPAの進化した形だと考えている。UiPathは、エージェンティックAIを活用したオートメーション(自動化)の未来を推進していく」 RPA/業務自動化ソフトウェアベンダーとして知られるUiPathが、“エージェンティックオートメーション(Agentic Automation)”という新たな製品戦略を掲げ、自動化領域をさらに拡大して効率化を促進するプラットフォームの構築に乗り出している。 2024年11月6日、UiPathが都内で開催した記者説明会では、この新たな製品戦略の概要を説明したうえで、プラットフォームを構成する新ツール「UiPath Agent Builder」や、チャット型の生成AIアシスタント「Autopilot for everyone」などを発表し、そのデモも披露した。 自動化対象を拡大できる“エージェンティックオートメーション”とは何か エージェンティックオートメーションとは、自律的に意思決定とアクションを行う「エージェンティックAI(Agentic AI、自律型AIエージェント)」を組み込んだ自動化ワークフローのことだ。 エージェンティックAIについては、10月に来日した同社CEOのダニエル・ディネス(Daniel Dines)氏が、従来のRPAが抱える課題を解消し、自動化の対象領域を拡大する次世代のAI技術として紹介していた(参考記事:「エージェンティックAI」とは? UiPath CEOが自動化とRPAの未来を語る)。 今回の記者説明会では、UiPath日本法人 プロダクトマーケティング部 部長の夏目健氏が、冒頭のコメントのとおり“エージェンティックオートメーションはRPAの進化形”であるという認識を示したうえで、具体的なワークフロー(請求書の処理プロセス)を例に挙げながら従来との違いを説明した。 従来のRPAによる業務プロセス自動化(ロボティックワークフロー)では、「請求書と発注書の照合」「ERPへの記録」といった定型的な処理をロボットが担うことで、自動化と効率化を図っていた。ただし、請求書と発注書の内容に不一致がある場合など、イレギュラーが発生した場合には、人の手でそれを調査、判断し、解決する必要があった。 このように、これまで人が担わなければならなかった(自動化の対象外だった)作業ステップをAIエージェント(エージェンティックAI)に代行させることで、自動化の範囲をさらに拡大するのがエージェンティックワークフローである。 上述した請求書処理の例で言うと、エージェントは項目不一致の状態に対して、自社のポリシー文書を参照(RAG)してそれが許容されるかどうかを調査したり、請求元に内容修正を求めるメールを送信して解決を図ったりすることができる。 「もちろん、これまでのAIと同じように“100%の結果”を求めるのは難しく、人のチェックはやはり出てくる(人によるレビューは必要になる)。それでも、細かな作業をエージェントに任せて人はチェックするだけでよくなるため、業務効率が高まる」(夏目氏) ただし夏目氏は、エージェンティックオートメーションの世界になっても、従来のロボットや人の役割がなくなるわけではない点に注意を促した。 UiPathの考えるエージェンティックオートメーションは、ロボット、エージェント、人を“適材適所で”組み合わせることで、エンドトゥエンドの自動化を目指すものだ。そのため、これまでRPAプラットフォームを通じてロボットと人のオーケストレーション、外部の業務システムへのアクセス、信頼性とガバナンスの機能を提供してきたUiPathには“強み”があると強調する。 夏目氏は、エージェンティックオートメーションにより自動化できる業務ユースケースは「どこにでもある」と語った。特に、人による判断が必要なためこれまでは自動化が進まなかった業務領域において、自動化が進むと考えているという。 “新入社員に仕事を教えるように”AIエージェントを育てるAgent Builder エージェンティックオートメーションという新たな製品戦略に基づき、UiPathではその実現のためのプラットフォーム構築を進めていく。今回、プラットフォームの構成要素として複数のツールがリリースされている。 開発者向け「UiPath Studio」の新ツールとして追加されたのが「Agent Builder」だ(12月からプレビューリリース開始)。これは、UiPathプラットフォーム上でロボットと協調動作するエージェントを構築するためのツールである。 Agent Builderでは、エージェントに対する指示をプロンプトとして入力できるほか、エージェントが実行できるアクションを指示したり、自社内にある独自の情報や専門知識を参照させたりできる。さらに、エージェントでは判断が難しい場合に備えて「誰にどうエスカレーションを行うか」を指定することも可能だ。 また、Agent Builderはフィードバックと評価の機能も備えている。エージェントが行った処理に対して、人が修正指示などを出せばそれを学習して“賢く”なっていく。さらに、構築したエージェントの処理精度(信頼度)のスコアも自動的に算出するという。 「これはちょうど、新入社員に仕事を教えるのと同じような感覚だ。『こういう内容の仕事を』『このツールを使って』『この情報を見ながら』進めてほしい、『困ったらこの人に聞いて』という指示も出せる。さらに、フィードバックから学習して、どんどん仕事のやり方がうまくなっていくのも同じだ」(夏目氏) なおプロンプトについては、ユーザー企業自身で複雑なプロンプトエンジニアリングを行う労力を軽減できるよう、UiPathからカスタマイズ可能なテンプレートを提供する予定だと述べた。 このAgent Builder以外にも、構築したエージェントを社内で公開/共有するカタログツール「Agent Catalog」、ワークフロー内ではなく独立したエージェントアプリを構築できる「Agent Apps」などもリリースされている。 RAG対応のAIアシスタントや、RPAワークフローの自動修復ツールもリリース RAGに対応したチャットベースのAIアシスタント「Autopilot for everyone」もリリース(一般提供開始)された。UiPathユーザーは追加料金なしで利用できるという。 UiPathではすでに7月から、開発者向けの「Autopilot for developers」、テスター向けの「Autopilot for testers」を提供している。今回は新たに“あらゆる従業員向け”のAutopilot for everyoneをリリースした。 Autopilot for everyoneは、RAGを通じて社内外のさまざまな情報を参照し回答できること、主要な業務アプリケーションや独自構築のワークフローを実行できること、そして過去のアクション結果から“学習する”ことを特徴としている。 なお、Agent BuilderやAutopilotはRAGの機能を備えるが、ユーザーがドキュメントファイルをアップロードするだけでRAGの情報ソースとして使える「コンテキストグラウンディング」もリリースされた。 そのほか、RPAの自動化ワークフローを生成AIが自己修復する「Healing Agent」(プレビューリリース)も発表された。RPAではアプリケーションのUI変化が自動実行エラーの原因となるが、Healing Agentではその原因を解析して自動修正を行うことができる。 * * * UiPath日本法人 カントリーマネージャーの南哲夫氏は、10月下旬に米国で開催された年次イベント「UiPath FORWARD」に参加した日本の顧客企業やパートナーから聞かれた声を紹介した。 「『UiPathの未来と方針、熱量が伝わってきた』『RPAの時代をUiPathと作ってきた、新しいエージェンティック(オートメーション)の時代も日本のユーザーと作り上げていきたい』『Autopilot for everyoneはすぐにでも検証を始めたい』など、さまざまなご意見をいただいた」(南氏) 文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp