温室効果ガスで地球外文明を発見できる? 現在の技術で可能かもしれない
■自然界では稀な温室効果ガスは文明の兆候となるかもしれない
Schwieterman氏らの研究チームは、大気中に含まれる温室効果ガスが、テクノシグネチャーとして使えるのではないかと着目しました。温室効果ガスは地球では厄介な問題ですが、気温の低い惑星を温める手段としては有用性があります。火星のテラフォーミングで使用が検討されているように、地球外文明も他の惑星を開拓することや、差し迫った寒冷化の対策として意図的に温室効果ガスを排出する可能性は十分に考えられます。 今回の研究では、温室効果ガスの中でも「四フッ化炭素(CF4)」「六フッ化エタン(C2F6)」「八フッ化プロパン(C3F8)」「六フッ化硫黄(SF6)」「三フッ化窒素(NF3)」の5種類を大気中から検出可能かどうかを検討しました。これらの分子はどれも、二酸化炭素やメタンの数百倍から数万倍という、強力な温室効果があることで知られています。また、これらは自然環境でほとんど合成されない分子のため、これらが検出されるほど高濃度に存在する大気が、何の文明の介在もなく自然に存在する可能性は低いと考えられます。 さらにこれらの分子は極めて安定であり、大気中に長く存在します。これは利用する側にとって、頻繁に補給しなくても良いというメリットであるだけでなく、観測する私たちにとってもメリットとなります。大気に含まれる微量成分の観測は、1回の観測だけで十分なデータが得られることは稀であり、普通は数ヶ月から数年の間隔を空けて複数回に分けて行われます。例えば、一般的なフロン類は数ヶ月程度の寿命しかないため、複数回の観測の間に消えてしまう可能性も考えられます。 また、これらの分子はオゾン層を破壊する状態へと変化することが稀であるという特徴があります。酸素が豊富な大気では、有害な紫外線を遮断するオゾン層が発生するため、地球外文明が私たちと同じくオゾン層への影響を気にする可能性は十分に考えられます。
■ウェッブ宇宙望遠鏡は意図的な温室効果ガスを観測できる!
Schwieterman氏らは、大気中に先述の分子が含まれている場合、現在の技術でも観測可能かどうかを検討するため、モデルとして太陽系外惑星「TRAPPIST-1f」を選び、検証を行いました。TRAPPIST-1fは地球から約40.7光年離れた位置にある太陽系外惑星ですが、地球よりも寒い環境にあるため、生命が生存するのに適する環境は惑星全体のわずかな範囲に留まると推定されます。もしTRAPPIST-1fに高度な文明があれば、住むことのできるエリアを拡大するために、温室効果ガスで気温を上げることは十分に考えられます。 Schwieterman氏らは、TRAPPIST-1fの大気中に、先述の5種類の分子が様々な濃度と組み合わせで存在していると設定し、ウェッブ宇宙望遠鏡でそれが観測可能であるのかを検討しました。温室効果ガスが温室効果を持つのは、熱の源である赤外線を吸収するためであるため、地球で観測できる大気由来の光は、赤外線の波長に吸収スペクトルが現れることになります。そしてウェッブ宇宙望遠鏡は感度の高い赤外線望遠鏡なため、この観測に適していると考えられます。 その結果、TRAPPIST-1fの大気を通過・反射した光を数回から数十回観測すれば、十分な精度で検出可能であることを示しました。これらの温室効果ガスがわずか0.0001%(1ppm)しか含まれていない設定でも観測可能であるというのは非常に驚きです。 もちろんこれは、それがあれば検出できるという可能性を示しただけですが、それでも現在の技術で観測できる可能性があるというのは興味深い点です。Schwieterman氏らは、この研究結果が、ウェッブ宇宙望遠鏡の性能がいかに高いかを示す一例であると述べています。 Source Edward W. Schwieterman, et al. “Artificial Greenhouse Gases as Exoplanet Technosignatures”. (The Astrophysical Journal) Jules Bernstein. “Telltale greenhouse gases could signal alien activity”. (University of California, Riverside)
彩恵りり / sorae編集部