〈なぜ働いていると本が読めなくなるのか〉「自分が決めたことだから、失敗しても自分の責任だ」社会のルールに疑問を持つことができない新自由主義の本質とは
なぜ働いていると本が読めなくなるのか #1
日本の労働と読書の歴史を紐解き、なぜ日本人が本を読めなくなったかを明らかにしたベストセラー本『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。 【画像】強制することができなくなった仕事の行事「飲み会」 本書より一部を抜粋・再構成し、2010年代に広まった新自由主義とは何かを解説する。
「多動力」の時代に
よくビジネス書では、人に好かれる能力を磨きなさいと説かれていますが、僕は逆だと思っています。人を好きになる能力の方が、よっぽど大事だと思います。 人を好きになることは、コントローラブル。自分次第で、どうにでもなります。でも人に好かれるのは、自分の意思では本当にどうにもなりません。コントローラブルなことに手間をかけるのは、再現性の観点でも、ビジネスにおいて当然でしょう。(前田裕二『人生の勝算』) 映画『花束みたいな恋をした』で、仕事に忙殺され、小説を読めなくなった主人公の麦が手に取っていたビジネス書『人生の勝算』。そこにはこんな言葉が綴られていた。 コントローラブルなことに手間をかける。それがビジネスの役に立つ。この発言は、まさに「ノイズを排除する」現代的な姿勢を地でいく発言ではないか。同書を読んだとき私は思わず、このページのスクリーンショットを撮ってしまった。 コントローラブルなものに集中して行動量を増やし、アンコントローラブルなものは見る価値がないから切り捨てる。それが人生の勝算を上げるコツであるらしい。 とにかく行動することが重要だと語る『人生の勝算』は、行動力に関するエピソードを多数収録する。前田自身、電話掛けの営業からメモの頻度や自己分析の量に至るまで、たしかに異常ともいえる行動量で知られる人物だ。 2010年代半ばのビジネス書の「行動重視」傾向は、同書だけに限ったことではない。『人生の勝算』と同じレーベルから出版された『多動力』(堀江貴文、幻冬舎、2017年)は30万部を突破。 あるいは『結局、「すぐやる人」がすべてを手に入れる』(藤由達藏、青春出版社、2015年)、『めんどくさがる自分を動かす技術』(冨山真由著、石田淳監修、永岡書店、2015年)といった行動を促すビジネス書は2010年代半ばに発売され、『花束みたいな恋をした』のなかで、社会人になった麦の本棚に収められていた。どの本も「行動量を上げることで、仕事の成功をおさめる」ことを綴ったビジネス書である。
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