「年収の壁」より「時間制約の壁」が問題だ 家庭の縛りなくなれば、働く主婦の多くが「フルタイム正社員」希望
「自身の裁量で時間や場所等を決めたい」のに、諦めてしまう
J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。 ――100%仕事に専念できるなら、「フルタイム正社員」で働きたいという人が4.6倍に増えました。この調査結果をズバリ、どう分析しますか。 川上敬太郎さん 働きたいと考える人がどんな雇用形態を望んだとしても、そこには決して良し悪しなどないと思います。フルタイム正社員を望む人もいれば、短時間非正規社員を望む人もいて、希望は個々に尊重されるものです。 そのうえで、フルタイムと短時間合わせて正社員を望む人が多いのは、それだけ主婦・主夫層の中にも、仕事のやりがいやそれに見合った報酬などを求めている人が多いということなのだと思います。 ただ、それらの思いが、家庭との両立という「時間制約の壁」によって抑えられてしまっているということではないでしょうか。 ――「年収の壁」より「時間制約の壁」が主婦・主夫層の働き方を制限している主因だというわけですね。 フリーコメントでは、私個人は「趣味が仕事です!と言い切れるぐらい仕事が好き...。主婦も働きたい人はいっぱいいる」という意見に共感しましたが、川上さんはどのコメントが一番響きましたか? 川上敬太郎さん それぞれ響く言葉ばかりですが、中でも印象的だったのが「自身の裁量で時間や場所等を決めたい」という言葉です。逆の言い方をすると、いまは「自身の裁量では時間や場所等を決められない」ということになります。 まさに、「時間制約の壁」が存在していることを示すコメントです。自身の裁量で時間や場所等を決められないことに慣れて当たり前になっていくと、そのこと自体に疑問すら生じなくなり、あきらめの気持ちに支配されてしまう人が少なくないのではないでしょうか。
年収の壁として意識すべきは、所得税ではなく社会保険の壁
――現在、103万円、106万円(月額8万8000円)、130万円と、さまざまな年収の壁をなくす論議が盛んです。一方で、103万円は「意識の壁」あるいは「幻の壁」という指摘もありますが、こうした誤解や複雑さについてはどう思いますか。 川上敬太郎さん 昨今、103万円という金額がクローズアップされるきっかけとなったのは、所得税の基礎控除等を引き上げると国民民主党が主張したことです。その施策自体は、手取りを増やす効果が大いに期待できるものだと思います。 ただ、収入が103万円を超えても、超える前より手取りが減って働き損になることはありません。にもかかわらず働き損が出ると誤解しているケースを除き、所得税を103万円の「壁」だと意識しているケースは稀です。 103万円が壁と認識されるのは、収入が103万円を超えると配偶者が勤める会社から支給される家族手当が打ち切られるケースが多いことが関係していると思います。これは所得税の問題ではないため、あくまで各会社で制度変更してもらわなければ「壁」の解消にはなりません。 ――なるほど。所得税の問題ではなく、配偶者が働く会社の問題であると。 川上敬太郎さん また、アルバイトしている学生さんは、所得税の扶養控除対象から外れるからと103万円以内に抑えるよう親から言われるケースもあります。その場合は、あくまで世帯収入を減らさないために親から出される指示であり、それによって学生さん個人の収入を増やす機会が奪われている面もあるだけに少し事情が異なります。 一方、社会保険の壁である、月額8万8000円を年換算した106万円の壁と年収130万円の壁は、ギリギリで超えてしまうと却って手取りが減り、働き損が発生します。 そのため、106万円と130万円の壁は政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」の対象になっています。年収の壁として意識する必要があるのは、基本的にはこれら社会保険の壁なのだろうと思います。