『ミス・ターゲット』すみれ、宗春、萌の思いが交錯 複雑に絡み合うそれぞれの糸
いい記憶よりも悪い記憶の方が頭のなかに残りやすいのは、“同じ失敗を繰り返さないため”だと、どこかで聞いたことがある。意図的に思い返さなくても、どうせ悪い記憶がこびりついてしまうのなら、いい記憶を何度も思い出してあげたい。誰かにされて嫌だったことより、してもらって嬉しかったことを思い出す。マイナスなことに目を向けるのではなく、プラスのことをすくい取る。その方がきっと、人生はいい方向に進んでいくはずだから。 【写真】松本まりかの撮り下ろしカット(多数あり) 『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第8話は、“おあいこ”がテーマになっていたように思う。 たとえば、すみれ(松本まりか)にお金を騙し取られた轟(八嶋智人)は、すみれに傷つけられたことに執着して殺人未遂事件まで起こした。そのため、刑期を終えて出所したあと、確実に復讐をしに来るものだと思っていたが、轟は「あなたのおかげで、人を愛する素晴らしさを知りました。ありがとうございます」とすみれに頭を下げたのだ。 まさか、だった。正直、わたしが彼の立場だったら、こんなにも寛大な心で接することができない気がする。裏切ったすみれのことを、恨み続けてしまうかもしれない。でも、轟はそうはしなかった。すみれを許し、すみれに許され、「俺はこれからまっとうに生きる」と前を向いた。これも、悪い記憶よりもいい記憶にスポットを当てる努力をしたからこそ。どの道が正解かなんて分からないが、すみれへの復讐のために生きていたかつての轟より、今の轟の方がいい顔をしているのは分かる。 その一方で、宗春(上杉柊平)はいい記憶に縛られて生きることのしんどさを体現していた。叶わぬ恋をしたときや、悲しい別れを経験したとき「嫌いになれたらどれだけラクだったか……」と思った経験はないだろうか。すみれが結婚詐欺師であることを知り、大好きな和菓子が作れなくなるほど落ち込んだ宗春も、「すみれさんを、ちゃんと恨めたらどれだけラクだったか」ともがいていた。 でも、すみれのことを嫌いになれないのは、彼女が与えてくれたいい記憶がたくさんあるから。和菓子を食べて、「すっごい美味しいです!」ととびきりの笑顔を見せて、自信をつけさせてくれたこと。「こんな美味しいものをたくさんの人に食べてほしい」と宗春以上に宗春が作った和菓子を大好きでいてくれたこと。宗春が、ちょーだい女子に騙されそうになったときは、お金持ちとのディナーをキャンセルしてまで駆けつけてくれたこと。そんな記憶があるから、宗春はすみれに傷つけられたとしてもプラマイゼロ。“おあいこ”にできるのかもしれない。