「起業」や「女性支援」で地域社会を活性化させる難民たちから学べること 「第19回難民映画祭」から考える考える多文化共生
難民をテーマにした良質な映像作品を公開する「第19回難民映画祭」が開催されている(申込みは2024年11月30日20時まで。視聴は同日23時55分まで)。上映中の6作品のなかから、避難先のコミュニティの発展に貢献する難民たちを描いた2作品を紹介する。 【画像】「起業」や「女性支援」で地域社会を活性化させる難民たちから学べること 「第19回難民映画祭」から考える考える多文化共生 ロシアによるウクライナへの侵攻や、アフリカ諸国の政情不安などに伴い、世界中で故郷を追われた人たちの数は、過去最多の1億2000万人に達した(2024年5月時点、UNHCR)。 こうした状況を受け、反移民・難民感情が高まる国・地域も少なくない。スウェーデン、オランダ、ポーランドなどが相次いで難民の受け入れを制限する政策を打ち出しており、またデンマークは、難民申請者をルワンダなどの第三国に移送する政策を検討している。 日本でも難民申請が3回目以上の人は、申請中であっても強制送還の対象となる改正出入国管理法が2024年6月に施行された。2024年11月5日に投票がおこなわれた米大統領選では移民政策がひとつの争点となり、次期大統領に就任するドナルド・トランプは、非正規移民の大規模強制送還を公約に掲げる。 移民・難民の受け入れに反対する人たちは、「雇用が奪われる」「治安が悪化する」など、彼らによって社会が不安定化し、自分たちの生活が侵害されることを懸念する。だが、『孤立からつながりへ~ローズマリーの流儀~』(日本初公開)は、移民・難民が地域社会を活性化する重要な人材になり得ることを教えてくれる。
目指すは「文化のブレンド」
同作は、オーストラリアのシドニー郊外の街で移民・難民女性を支援するケニア人女性を追ったドキュメンタリーだ。主人公のローズマリー自身も自国で1999年に起きた暴動をきっかけに、オーストラリアに移住した。 新生活を始めたばかりの頃、「とても孤独だった」というローズマリーは、自身のその経験をもとに、さまざまな問題を抱えながらも誰に助けを求めていいかわからない移民・難民女性に救いの手を差し伸べる。 彼女が支援する女性たちは中東や南アジア、アフリカなどさまざまな国・地域から来ているが、その多くが家庭内で根強く残る家父長制に苦しめられている。 彼女たちの故郷では、「外に働きに出るのは男性」と考えられている場合が多く、それゆえに女性たちは社会との接点を持ちづらい。オーストラリアに住んでいながら地元住民と交流する機会はほとんどなく、子育てや家事に追われ、自分の時間を持つ余裕もない。夫からの精神的・肉体的虐待に悩まされている人も少なくない。 ローズマリーはそんな女性たちに、電話をかけ、家を訪ね、彼女たちに外出の口実を与えるためのワークショップや文化交流プログラムを開催する。 集まった女性たちは、持ち寄ったローカルフードをつついたり、ダンスをしたりしながら、日々の悩みやストレスを吐き出していく。 ローズマリーは、移民・難民の女性たちだけではなくオーストラリア社会にも影響を与える。文化交流プログラムで女性たちを受け入れる豪南東部の海沿いの街キアマの住民は、文化的多様性のない田舎の生活や、かつては気軽にお互いの家を訪ね合い、おしゃべりを楽しんだような「ご近所づきあい」が失われてしまったことを嘆く。 だがそんなキアマで文化交流プログラムを機に、移民・難民の女性と地元女性との国境を越えたシスターフッドが生まれていく。 移民・難民の支援をする地元NPO「地域移民情報センター」のメリッサ・モンテロは、こうした様子を「文化のブレンド」だと評する。それは、どちらかが一方に合わせるわけではなく、「お互いを溶け合わせ、境界を越えた意思疎通を実現する真の多文化主義」なのだという。 本作で、自立の道を歩む女性たちが、男性の問題について語る場面も印象的だ。女性たちが抱える孤独や家庭内暴力の問題は、移民・難民男性の状況に起因することが徐々に明らかになる。 「英語も学ばず、地元文化にもなじもうとしない」「自国とは違って女性の権利が認められている国に来て、男性は力の低下を感じている」「子供と女性に比べて、男性向けの支援が少ない」など、実は女性と同様に、男性も現地社会から孤立しているのだ。そんな彼らをどのようにして救い出すかを相談する女性たちの姿は、頼もしい。 作品では描かれることはないが、ローズマリーたちならきっと、男性たちも活動に巻き込み、真の多文化主義を豪社会に広げていくだろう。彼女たちのしなやかな強さは、すでに約340万人の移民を受け入れる日本社会にも大きな示唆を与えてくれるはずだ。 ●作品の鑑賞方法など、「第19回難民映画祭」の詳細はこちら(申込みは2024年11月30日20時まで。視聴は同日23時55分まで)。
Chihiro Masuho