名門再建の先へ 新体育館とともに作る「応援されるチーム」 最強の仕組みを 革新 徳洲会体操クラブの挑戦(10)
山型の天井は木材がふんだんに使われ、両脇の壁の大きなガラスからは外光が差し込んでいた。10月、完成した徳洲会体操クラブの新たな練習拠点「徳洲会ジムナスティクスアリーナ」(神奈川鎌倉市)は明るく温かみのあるデザインが特徴だ。 【写真】新たな体育館でロサンゼルス五輪に向けてスタートを切った徳洲会とジュニアアスリート契約の選手たち ■「見てもらえる環境」 地上3階建て、延べ床面積5222平方メートル。2階の体操練習場には床運動のフロアを2面備え、各種目の器具も複数ずつ並ぶ。1階には選手用の食堂と浴室、サウナ、直線80メートルの室内陸上走路が入っている。体操の男子専用体育館としては国内最大規模で、総工費が数十億円といわれるのも納得の充実度である。 同クラブ監督の米田功(47)は「選手は練習で、ここに1日中いるので、家のように過ごしやすい場にしたかった。より集中できる環境が確保されたかなと思う」と話す。 こだわりの一つは「見てもらえる環境」。2階の子供の体操教室や、3階の会員制メディカルフィットネスジムからは選手の練習場を見渡すことができる。海外で選手の練習を見学しやすい体育館を目にしたことがあり、同様の形を実現したかったのだという。 「徳洲会の選手たちも多くの方に注目され、体操をメジャーにしていきたい気持ちを持っている。この体育館で大会をやりたい。そうすれば、また新しいステージに行けると思う」 このように次の夢を語れるようになるまで時間は掛かった。 2004年アテネ五輪で団体総合金メダルに輝いた米田が、現役時代に所属していた徳洲会に監督として戻ったのは13年1月だった。かつて徳洲会は、世界大会の代表を数多く輩出し、全日本選手権の団体を03年から5連覇した常勝軍団だったが、選手が入れ替わる中で勢いは失われ、監督4年目の16年リオデジャネイロ五輪は、ついに1人も代表に送り出せなくなっていた。 ■東京、パリで結実 そこから米田はチームを立て直すための革新的な施策を次々と打ち出してきた。有望高卒選手のスカウト▽「食」環境の改善▽人材教育会社や陸上競技の指導者ら外部と連携した選手育成▽デジタルを活用したファンとの交流…。その結果、21年東京五輪で北園丈琉が団体銀メダル、今夏のパリ五輪では杉野正尭と岡慎之助が団体金メダルに輝き、岡は個人総合と種目別鉄棒でも優勝して3冠を達成した。「名門再建」と言って差し支えない成果だろう。 副主将でチーム最年長の高橋一矢(28)は、入部してからの6年間を、こう振り返る。