“会社員作家”石田夏穂が描く中間管理職の悲喜劇 体重管理に必死なマッチョ係長が仕事でてんてこまい
デビュー以来、『我が友、スミス』と『我が手の太陽』で2度芥川賞候補となった石田夏穂さんが小説『ミスター・チームリーダー』を上梓した。5作目となる今作は、男性の中間管理職が主人公。描きたかったものは何なのか、石田さんに話を聞いた。 【写真を見る】「今の世の中、上司って本当に“無理ゲー”だな」と語る石田夏穂さん ■会社員をしながらの執筆活動 昨年、第169回芥川賞候補になった前作『我が手の太陽』では、配管工事を請け負う中小企業で働く熟練の溶接工が主人公。それまでの作品でも工場設計を請け負う会社や、備蓄用タンク工事業者で働く人などを題材に、詳細な描写で“お仕事小説”を手掛けてきた。
そして今回、『ミスター・チームリーダー』の舞台に選んだのは大手リース会社。 なぜなら、「自分が施工管理の仕事をしているときに、総合レンタル業者さんってすごい! といつも思いながら仕事をしているんです。ありとあらゆるものを手配してくれるのはもちろんのこと、その機敏さ、柔軟さ、万能さを描きたいと思った」から。 そう、石田さんは今も会社勤めをしながら、小説の執筆を続けているのだ。 もともとはミステリー作家になるのが夢だった。
「サスペンスやミステリーが好きで、高村薫さんの作品をよく読んでいました。大学生のとき、時間があったので自分でも書いてみようかなと、スナイパーやスパイを主人公にした小説を書き始めたんです」 作品ができあがるとミステリーの新人賞に応募してみたが「全然ダメでした」。大学卒業後は一般企業に就職し、出勤前や休日に執筆。作品を仕上げては賞に応募したが、なかなか評価されなかった。 「それで、ちょっとやさぐれた気持ちで、ミステリーではない作品を書いてみたんです」
このときの作品が『その周囲、五十八センチ』。これは太ももにコンプレックスを持つ女性が脂肪吸引を繰り返す小説で、2020年の「大阪女性文芸賞」を受賞した。 「スナイパーやスパイじゃなく、普通の人の話を書いたほうが面白いって言ってもらえるんだ、と思って意外でした(笑)」 新たな気づきを得て、次は筋トレに励む女性会社員を主人公に書き始めた。この作品『我が友、スミス』が2021年に第45回すばる文学賞佳作となりデビュー。デビュー作ながら、第166回芥川賞候補作品にも選ばれ、注目を浴びた。