自民党総裁選、機密費の論戦なく くすぶる流用疑惑 大規模買収事件のあった地では「候補者は考え示して」の声
自民党総裁選(27日投開票)で「政治とカネ」を巡る論争が続く中、使途が公表されず「ブラックボックス」になっている内閣官房報償費(機密費)に関する論戦が聞こえてこない。2019年の参院選で大規模買収事件が起き、機密費の流用疑惑がくすぶる広島県からは「機密費の透明化をどう考えるのか。候補者が考えを示すべきだ」との声が上がる。 「総理、すがっち、幹事長、甘利」河井元法相のメモの記載内容 自民党派閥の裏金事件を受けて「政治とカネ」が問われる総裁選。使途が公開されない政党の政策活動費を巡る発言が相次ぎ、幹事長の茂木敏充氏が「廃止」を掲げるなど踏み込んだ訴えが続く。その半面、機密費の論戦は聞こえてこない。 自民党は告示後、全国各地で演説会を順次開催。20日は島根県松江市であり、9人の候補者が党改革や外交、地域振興などの政策を訴えたが、機密費への言及はなかった。 機密費は、時の内閣が水面下での活動に使う目的で毎年12億円が国費で賄われる。国は「高度な機密性」を理由に使途を公表していないが、政治家への餞別(せんべつ)や選挙対策など本来の目的から外れた使途にも充てられていると指摘されてきた。09~12年の民主党政権では30年後の使途公開を検討する動きもあったが、政権が自民党に戻ってからはその動きは途絶えた。 機密費を巡る議論が聞かれない今回の総裁選に関し、政治資金問題に詳しい神戸学院大の上脇博之教授は「『裏金』をなくそうと本気で考えていない自民党の本心が表れている」と指摘。6月の政治資金規正法改正を中途半端な内容にとどめた点を挙げ「政策活動費の廃止とか使途公開を言っているが、裏金をつくれるルートはいくらでもある。その一つをなくすだけ」と冷ややかに見る。 広島の大規模買収事件では、主犯の河井克行元法相の自宅から「総理2800 すがっち500」などと手書きされたメモを検察が押収していたことが昨年9月の中国新聞の報道で判明。事件当時、官房長官だった菅義偉氏が500万円の裏金を提供したとの疑惑が浮上した。菅氏は否定したが、国会では野党が「機密費が原資だったのでは」と追及した。 「機密費の原資は税金であり、使途を透明化してほしいとの国民の思いは強いはずだ。総裁選の候補者は自分の考えを示すべきだ」と話すのは、同事件の真相解明を訴える市民団体「河井疑惑をただす会」の山根岩男共同代表。「国民の怒りを無視していたら、自民党はしっぺ返しを受けるのではないか」。秋にありそうな総選挙を見据え、総裁選を見守っている。 ◇ 内閣官房報償費(機密費) 国の重要政策の情報収集や関係者との調整などに使う目的で予算化され、官房長官が管理する。大半は長官の判断で、領収書を取らずに支払うことができるが、目的外の使用が繰り返し取り沙汰されてきた。2000年以降の自民党政権の官房長官経験者は今春の中国新聞の取材に、国政選挙の候補者応援の際に機密費から陣中見舞いとして100万円を出したと証言。選挙への流用で不適切だったと認めた。
中国新聞社