隈研吾設計、歴史的建造物を改築したラグジュアリーホテルが奈良公園“内”に開業。
2023年8月末にオープンした〈紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良〉は、日本有数の名勝地・奈良公園の西端、若草山のふもとに位置する。大自然の中、大正時代に建てられた歴史ある施設を、隈研吾はどのようにデザインしたのか? 詳細をレポートします。 【フォトギャラリーを見る】 かの東大寺に隣接する場所にあり、歴史や文化に富んでいることから「歴史公園」とも称される奈良公園。2023年夏、この奈良公園内に、隈研吾設計のラグジュアリーホテル〈紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良〉がオープンした。 この敷地は、かつて平城京遷都とともに藤原京から移設された興福寺の子院があった場所。明治期の廃仏毀釈により民間の所有となり、1919年に事業家の正法院寛之が自宅として庭園や建物を作り、1922(大正11)年に奈良県知事公舎が建てられた。
この奈良県知事公舎を、歴史的建造物としての趣を残しながらリノベーションしたのがホテルのメイン棟だ。フロントの正面には鶴や季節の木々が描かれた杉戸絵が修復されて使われ、昭和天皇が「サンフランシスコ講和条約批准書」に署名をした「御認証の間」がそのままの形で残されているなど、建物が持つ歴史の一端を感じることができる。 元は迎賓の間として使用されていたというラウンジ「寧楽」は、デザインとしての見どころがとても多い場所だ。寺院や神社、城などに取り入れられる格(ごう)天井、梁や柱が見える真壁(しんかべ)造り、印象的なモスグリーンの砂壁とカーペット敷きの床……。隈が大正期の日本家屋の美しさと、往時のモダンな華やかさを同時に残そうとしたことが感じられる。
一転して、今回隈によって新設された客室棟では、現代に照準を合わせたモダンなデザインを体感できる。平均46平方メートルのゆったりした客室には、日本の伝統工芸の技術を生かしたあしらいが随所に施されている。最も印象的なのは、敷地内にある内蔵の入り口に使われていた「いばら」(曲線が交わる箇所に突点を設けた伝統的なデザイン)のモチーフを、寝室や風呂の境となる壁に使用していることだろう。外の豊かな緑が額縁のように切り取られることで美しさが際立ち、柔らかな輪郭の中で庭を見れば、よりリラックスできるように感じる。隈らしく木がふんだんに使われた空間と、部屋付きの温泉。まさに「癒し」がデザインされた場所だ。