財政検証で判明、年金「100年安心」ではなかった!公約を実現するには今後も調整が必要だ
結局のところ、安心年金は実現できておらず、これからも調整が必要だ。その姿を財政検証で示す必要がある。 ■実質賃金上昇率を妥当な値に想定する必要 将来を見通す場合に重要なのは、実質賃金の想定上昇率を妥当にすることだ。なぜなら、実質賃金上昇率が高いと、保険料収入の伸びが年金給付の伸びよりも高くなり、公的年金の財政事情は好転するからである。 これまでの財政検証は、高すぎる実質賃金率想定で、年金財政の真の問題を覆い隠してきた経緯がある。
以上のことは、物価上昇率がゼロの場合を想定すれば、わかりやすい。この場合、賃金が上昇すれば、保険料率は不変でも、保険料総額は賃金と同率で増加する。他方、新規裁定年金は賃金と同率で増えるが、既裁定年金は変わらない。 新規裁定年金は、年金総額の一部でしかないので、年金支給総額はあまり変わらない。年次が経過するにしたがって、年金支給額総額中で増加した部分の比率は増えていくが、保険料ほどの増加にはならないのである。
毎月勤労統計調査によれば、実質賃金指数は、2004年の110から、2023年の97.1まで11.7%下落した。 だから、上で述べた2004年度財政再計算で、実質賃金上昇率を1.1%と設定したのは、きわめて大きな過大見積もりだったことになる。 今回の財政検証における実質賃金の見込みを、これまでのように高い値に設定すれば、ここで問題としていることが再び隠蔽されてしまう。したがって、現実的な値に設定することが、ぜひとも必要だ。
なお、実質賃金の上昇が年金収支に与える影響の正確な説明は、ややテクニカルなので、以下「補論」として説明することとする。 ■実質賃金上昇が保険財政に与える影響 初年度において、保険料の総額がA、年金支給総額がBであるとする。実質賃金上昇率が年率rであるとする。また、保険料支払者数は、各年齢に同数だけ分布しており、年金受給者は、65歳から85歳まで、各年齢に同数だけ分布しているとする(つまり、保険料支払者や年金受給者数は、時間的に不変であるとする)。初年度において、一人あたり年金額は、年齢によらず、B/20で同額であるとする。