「ブラザーの対抗TOB」でも投資ファンドを頼るローランドDGの謎 タイヨウはかつての親会社非公開化でも登場
投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズが、100%支配を目指して2月13日から実施している、サインプリンター大手のローランド ディー.ジー.(以下、DG)株式のTOB(株式公開買い付け)。 【経緯】ローランドDGはブラザー工業からのTOB提案を過去に2回拒否 建前上はDGの田部耕平社長によるMBO(経営陣が参加する買収)となっているが、田部社長が非公開後に出資するのはわずか0.25~0.5%程度の予定。事実上タイヨウのスクイーズアウト(強制買い取り)による完全子会社化である。
当初は波乱なく終わるかに見えたが、3月13日にブラザー工業がDG側の同意を得ることなく「対抗TOB」を宣言。一気に雲行きが怪しくなってきた。 ■TOB価格を修正しなかったタイヨウ ブラザーはタイヨウによるTOBが成立していないことを条件に、対抗TOBを仕掛ける。ブラザーからするとDGが強みを持つ産業印刷領域を補強できる。 TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。
タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である。 一方のDGは必要な開示をしているとはいえ沈黙を守っている。2月のタイヨウによるTOB開始と同時に、個別の取材対応を停止。予定されていた決算説明会すら中止するほどの徹底ぶりだ。 真意は確認のしようがないが、タイヨウのTOB開始と同時にDGが公表した意見表明報告書の文面は、昨年9月にブラザーから買収提案を受けたため、DG側がタイヨウに救いを求めて駆け込んだように読める。
買収提案を受けた場合、取締役会は、取締役会とは別に特別委員会を設置し、特別委は会社側とは異なるLA(リーガルアドバイザー)、FA(フィナンシャルアドバイザー)を雇うこと――。 昨年8月に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」(以下、指針)はそう推奨している。買収提案を受けた企業は、望まない相手からの提案でも真摯に検討すべしとしている。 だが、DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった。そればかりか、ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ。