アスリートへの誹謗中傷は「パリ五輪」だけじゃない…「出る杭」を徹底的に叩く空気感の正体
誹謗中傷は必ず発生する
もっとも刺青にしても、批判すべきではない。それはその人特有の表現方法であり、入れるか入れないかは、その人の自由なのだから。國母選手の腰パンだって全く同じである。 恐らく國母選手は、そのヘアースタイルが、日本人には珍しいドレッドヘアだったということも、批判の理由になったに違いない。なにしろ高校野球の甲子園大会に出場するのに、丸刈りではない選手が批判の対象になるような国、日本である。とにかく「出る杭」に対しては徹底的に叩くのが許される空気感がこの国では当たり前になっているのだ。 五輪に限らず、国際大会に出場する選手への誹謗中傷は、毎回繰り広げられている。 五輪と並ぶ国際的ビッグイベントであるサッカーW杯では、1998年のフランス大会での誹謗中傷が特に印象に残る。当時、日本のエースストライカーとして期待された城彰二選手が「決定機にゴールを決めないくせに試合中ニヤニヤしていた」と猛烈に叩かれ、日本帰国の際には成田空港で水をかけられたことをご記憶の向きも多いのではなかろうか。 話はパリ五輪に戻そう。繰り返しになるが、ネットの誹謗中傷の件をパリ五輪特有のものと思うはやめた方がいい。これまで述べてきたように、大規模スポーツイベントでは必ずネットの誹謗中傷は発生しているのである。パリ五輪における誹謗中傷を問題視するのであれば、日々のプロスポーツも含め、過去の五輪やW杯も問題視するのが極めて真っ当な感覚である。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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