アスリートへの誹謗中傷は「パリ五輪」だけじゃない…「出る杭」を徹底的に叩く空気感の正体
国賊扱い
大盛況に終わったパリ五輪。その一方で、出場したアスリートに対するネット上での誹謗中傷が問題視された。金メダルを期待されていたにもかかわらず、2回戦で負けてしまい、号泣した柔道女子代表・阿部詩選手や、1種目に専念するため、エントリーしていたもう一つの種目を辞退した陸上選手などが、ネットですさまじい誹謗中傷を受けた。さらには“疑惑の判定”を下したとされる審判にもその矛先は向かった。 【写真】東京2020五輪の際に大バッシングを受けた水泳・池江璃花子選手の姿
こうした選手らへの誹謗中傷については、「パリ五輪特有のもの」「SNS時代ならではのこと」といった意見や分析も数多く見られる。が、さにあらず。過去の五輪の際にも数多く起きている。 まずは前回の東京大会。白血病から生還し、出場を果たした競泳の池江璃花子選手が猛烈な批判を浴びた。というのも、当時は日本を含む世界中がコロナ騒動真っ只中で、“そんな最中に五輪を開催してはならない。東京五輪は人々の命を危険に晒す”、という意見が、主に左翼系と呼ばれる人々の間で広まっていた。 結果的に東京五輪は一年延期され、2021年に無観客で行われたものの、“大会の顔”とも言える池江選手への誹謗中傷は見ていられないほど酷いものだった。要するに、“コロナ五輪を推し進める国賊”という扱いを受けたのである。池江選手への過度なバッシングは、政治性を多分に帯びたものだったのだ。
反省してまーす
さらに遡ること10余年。2010年に開催されたバンクーバー五輪では、スノーボード・ハーフパイプの日本代表である國母和宏選手に対し「腰パン姿がだらしない」と、ネット上に批判が猛烈に書き込まれたのである。 いや、別に腰パンぐらいいいだろ……。というもっともな意見は封殺され、「日本代表としてふさわしくない!」の大合唱。國母選手は金メダル候補ではあったものの、結局8位。 私自身も、彼は金メダルを取ると思っていた。が、あまりにも激しいメディアの批判とネット世論の反発に、さすがに心が折れたのでは、と今となっては思うのである。 また、國母選手は会見で、メディアが服装の乱れに関してアホのようなどうでもいい質問をし続けると「反省してまーす」と述べ、これがさらに不評を買った。「ただ単に形式的に反省の意を示しているのだろ!」と、大批判を浴びたのだ。さらに、マイクが「チッ、うっせーな」という、國母選手の苛立ちの声まで拾ってしまい、炎上はもはや消火不能な、稀に見る大火災へと発展した。 この件については無論、批判する側に共感する点は一つもない。「腰パン」がアスリートの品格に関係があるのか。しかも、サッカー選手やバスケ選手の多くは日本における「反社会勢力」の象徴とも言える刺青を入れているが、彼らを批判することはないのに、である。