青木真也がよく使う「バカだなぁ」に込めた意味 ネットが“クソリプ”で荒れるシンプルな理由【青木が斬る】
青木が大事にしている“客”とのつながり
青木は格闘家や文筆家としての活動以外にオンラインショップの運営もしている。Tシャツにタオル、シールなどさまざまなオリジナルグッズを販売しているが、売り上げが全てではなく自身のファンとつながるツールのひとつでもある。 「あれはさ、全部自分で発送して、メッセージも一筆入れているんだよ。ありがたいことに買ってくださる方が多いんだけど、それがつながりなんだよね。みんなが雑にするところを雑にしちゃいかんのですよ。これが本当に妙で、手を抜きがちなところを手を抜かない。それが大事なんだよ。 グッズの位置付けすらも利益を得るものではなくて、つながりとして感謝をするものになっていくと。『ライブはグッズで』っていうのはメジャーアーティストの話で小さい個人商店はひたすら丁寧にやっていくしかないですよね。自分で言うのもあれだけど、自分の客の質は抜群だと思う。本当にありがたい」 昨年末にはアオキロックTシャツを販売。何百枚も注文があったが、クレームはほぼなかった。これはアパレル関係者も驚くレベルだといい、さらにグッズのリピート購入者も多かった。 「週に1回、アパレル担当者とミーティングをするんだけど、販路を広げていくことよりも、今いるお客さんのケアをすることを大事にしてます。俺が表に出ていくからクソリプはどうしても生まれる。試合しているからそれは仕方ないよね。でも、今いるお客さんに対して心地良い空間だけは維持しないといけないっていうのはすごい意識してるんだよ」 SNS社会では著名人が悪目立ちすると「○○ファンの治安悪い」「○○ファンは痛い」などとその著名人のファンまで批判の的になることがある。これは青木にとっても「怖い」こと。 「めちゃくちゃ怖い。だから秋山(成勲)戦の後とか気を付けました。アテンションを集めることをやめようと思った。あのときって数字が出ちゃったし、売り上げはめっちゃ上がった。注目が集まったけど、いつもと違うお客さんだなっていうのは当然分かりました。それで誤解というか曲解が増えたんですよね」 試合前から自らも秋山をあおり、注目の一戦となったが、その後は自分なりの方法で本来のファンに対してケアした。 「秋山戦の後にグラップリング戦をやったのよ。これをめちゃくちゃ分かりづらくしました。青木真也の客じゃないと分からない難解なものに。試合の内容自体もそうだし、その前後も好きな人でないと分からないようにしたんですよ。フィルターを作ってわざと売り上げを下げたんです」 今年1月の試合に向けた会見では「格闘技の試合を見るというよりも小説だったりドラマだったり、映画を見るような感覚で見て」と発言。ファイトキャンプ中、ケージに入る前、試合後、その全てにメッセージが込められている。考えるための「余白」を大事にする青木が自身の「表現」について分かりやすく説明した。 「僕の試合ってどれくらい青木の意図をくみ取れるか競争みたいなところがあるじゃん(笑)。メッセージを各所に散りばめているんですよね。独特ではあるんだけど、それが客と僕との勝負でもあるから。全部分かりやすいわけじゃない。あとで答え合わせをしたときに『これは分からなかったな~』みたいなものもあるものに仕上げてる」 1月の試合では普段シャツを着用し、入場してくるところを裸で登場。それは「ケンドーカシンがハイアン・グレイシーとやったときに裸で入場したから」。そこまで分かって観戦したファンはいるのか、というレベルまで細かく創っている。これを分かったファンは、外から見ればマニアであるが、なによりも青木からメッセージを受け取れた人だ。これこそがつながりだ。 認知度を上げることももちろん必要。その上で分かりづらくていい。これが青木の創る世界観。「『これ何言ってんだろう』っていうのを混ぜていかないと面白くないですよね」。 ◇ ◇ ◇ 「青木真也」の言葉のなかには「これどういうことだろう?」とすぐに理解できないものもある。咀嚼するまで時間がかかることもあるが、ここで素通りせず、立ち止まるこの時間が大切だと思う。時短、タイムパフォーマンスが求められる時代では、発信者側が分かりやすく伝えることや拡散されることばかりに目がいきがち。しかし、受け手側がすぐに答えを求めず、出さず、自分の頭で考えて丁寧に向き合うことがネット社会に生きる現代人には必要だと思う。 □青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。
島田将斗