マッチョを集めた福祉会社代表 お膳をひっくり返してモノを投げる要介護度5のクレーマー利用者…その態度を軟化させた「とあるスタンス」とは
公益財団法人介護労働安定センターが実施した2022年の調査によると、介護労働者の平均年齢は50歳、男女比は男性が約2割、女性が約8割だそう。そのようななか、「介護スタッフの平均年齢は29歳、男女比は男性7:女性3」だという株式会社ビジョナリーの代表を務めるのは丹羽悠介さん。その丹羽さんいわく、「事業を始めた当初、紹介された最初の利用者はいわゆる“クレーマー”だった」そうで――。 【写真】ムキムキのマッチョがズラリ! * * * * * * * ◆曲者の“クレーマー”から事業をスタート 介護には大きく分けると訪問介護と施設介護があります。 訪問介護は、介護スタッフが利用者(要介護者)の自宅などを訪問して介護サービスを提供するもの。施設介護は、利用者を施設に受け入れて介護サービスを提供します。 私が最初に選んだのは、訪問介護。資金も土地も建物もない状態での起業では、訪問介護を選ぶのがベストな選択だと考えたのです。 ビジョナリーの事務所は、母が経営していた焼肉屋の奥にあるスペースを無料で借りることにしました。 スタート時のメンバーは、ともにホームヘルパーの資格を持つベテランの姉とその友人の女性、そして私の合計3名です。私は急いで厚生労働省の認定を受けるホームヘルパーの資格を取りました。 ケアマネジャー(介護保険制度に基づいて、高齢者や介護が必要な方に対してサポートを行う専門職)から紹介された記念すべき最初の利用者は2組。どちらも、いわゆる“クレーマー”でした。 なぜなら、地域の事業所として最後発だった私たちは、他の事業者が「この人たちは、自分たちでは支えることができません!」と匙を投げた利用者を支援する仕事から始める他なかったのです。2組とも70代前後の夫婦。要介護度5でした。
◆要介護度 要介護度について少しだけ説明しましょう。 そもそも要介護とは、身体・精神の障害により、原則6カ月にわたり継続して、入浴、排せつ、食事といった日常生活における基本的な動作の全部または一部について、常時介護を要すると見込まれる状態です。 要介護度には、1から5までの5段階があります。 要介護度5はもっとも重い段階。排せつや食事、身だしなみや部屋の掃除といった身の回りの世話がほとんどできない状態であり、日常生活すべての面で常時介護がないと生活をするのが困難な人が対象です。 要介護度が重たいほど支援は大変ですが、事業所の経営的には要介護度が重たいほどプラス。介護サービスの単価自体は同じなのですが、要介護度が重たくなるほど、支援に入る頻度が増えるため、収入が得やすいのです。 毎日介護の仕事に精が出せると、収入面でプラスになるだけではなく、経験値も早く高まります。その意味でも、要介護度5の利用者が支援できるのは、スタートしたばかりの事業所にとっては有難い話でした。 2組ともほとんど寝たきりに近かったので、要介護度5の定義にもあったように、日常生活のすべての面での支援が求められます。 典型的な1日のスケジュールは、次のようになっていました。 まず、事前に起床時間を伺い、時刻通りに訪問します。そして汚れたおむつを新しいものに交換して着替えを手伝い、好みに応じた朝食を提供します。 食事の後片付けを終えたら、次はお昼前に再び訪問。おむつを交換して、昼食を提供したら、必要に応じて部屋の掃除などを行います。 1日の締めくくりとして、夕飯前に訪問。おむつを交換して、夕飯を提供したら、お風呂に入ってもらいます。入浴が困難なケースでは、身体をキレイに拭く「清拭」を行うこともあります。 すべて終わると、「今日はこれでおしまいです。また明日の朝来ますね」と挨拶して、1日が終了。その繰り返しです。 以上のサービスを3人でローテーションを組み、1回1組あたり一人で担当しました。
【関連記事】
- マッチョを集めた福祉会社代表 インターンをしたマッチョたちはなぜ誰一人『介護はムリ』と言わなかったのか…これまでにない価値を作るのに必要なもの
- マッチョを集めた福祉会社代表 夢破れて背負った借金と深刻な人間不信…介護した70歳前後の男性からかけられた「希望の光」のような言葉とは
- 樋口恵子 77歳の時に大手術を受け、リハビリでかけられた言葉に思わず涙が…ずいぶん反対もあるなか「介護保険を作れ!」と最後まで旗を振り続けて本当によかった
- 樋口恵子 嫁姑問題を避け、自立しようと健気に生きてきたのに思いがけない成行きが。近ごろの親は老いの生き方・住まい方まで難しい【2023年BEST】
- 「早く死んでくれと思う時も」なぜ仲睦まじい夫婦、愛情深い家族ほど介護は苦しむのか…「思いやりの一方通行」の先に待つもの