【原油80ドル超え】イスラエル・ヒズボラの全面戦争懸念、エジプトでは民衆反乱の兆候…中東のヤバさを市場が再認識
原油価格がじわり上昇してきている。米国でのガソリン需要の伸びに期待する声が背景にある。 だが、それは期待外れに終わる可能性がある。むしろ、地政学リスクの高まりを市場が再認識しはじめた。 中東ではイスラエルとヒズボラが全面戦争に突入する可能性が高まっている。エジプトではイスラエルに弱腰な政権に対して民衆が反乱を起こす兆候が出ているとの報道もある。(JBpress) (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 【写真】テレビ演説をするヒズボラの指導者 原油価格はこのところ上昇している。 米WTI原油先物価格(原油価格)は6月18日に一時、1バレル=81.67ドルと4月末以来7週間ぶりの高値を付けた。 世界最大の原油需要国である米国がドライブシーズンに入り、「来月に向けてガソリン需要が強まっていく」との期待とともに、ロシアと中東地域の地政学リスクが再び意識されるようになっていることが主な要因だ。 まず、世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。 米国の直近のガソリン価格は4週ぶりに上昇したが、ガソリン需要の伸びは例年に比べて小幅にとどまっている。それでも市場では「ガソリン需要は今後拡大する」との見方が根強いが、筆者は「期待外れに終わるのではないか」と考えている。 世界第2位の原油需要国である中国の動向も芳しくない。 5月の原油需要量は前年比1.6%減の日量1425万バレルだった。前月に続く減少であり、年初来の累計も前年比0.3%増に過ぎない。5月の原油輸入量は前年比8.7%減の日量1106万バレルだったが、そのうち日量100万バレル以上が備蓄に回っていることも明らかになっている。 世界の原油需要の3分の1を占める米中両国の原油需要が思わしくないにもかかわらず、原油価格が下落しないのは供給サイドの動向が関係している。
■ デンマークがロシア「影の船団」を阻止か 世界最大の原油供給国となった米国の活動がさえなくなっている。 米国の昨年の原油生産量は前年に比べて日量70万バレル増加したが、このままのペース(日量1310万バレル)で進めば、今年は前年割れになる可能性が高い。 ノルウェーのエネルギー調査企業ライスタッド・エナジーは17日「世界の今年の原油供給量は前年比横ばいとなる可能性がある」と予測している。 需要、供給両面で「縮み」傾向が生まれ、縮小均衡になりつつある原油市場の下で、影響力を増しているのが地政学リスクだ。 市場が敏感に反応しているのはロシアの地政学リスクだ。 ロシアでは18日、南部の港湾都市アゾフに立地する石油関連施設で大規模な火災が発生した。ウクライナによるドローン攻撃だとみられている。ロシアはこれまで様々な方策を講じてきているが、ウクライナのドローン攻撃を有効に防御できない状況が続いている。 注目すべきはデンマークの動きだ。 デンマーク政府は17日「ロシア産原油をバルト海経由で輸送するいわゆる『影の船団』を阻止する方法を同盟国とともに検討している」と発表した。 デンマーク政府は具体的な対策について言及しなかったが、ロシア政府は「海峡を通過する船舶に制限を課すことは、1857年に制定され現在も法的拘束力を持つコペンハーゲン条約に反している。だんじて受け入れられない」と猛反発している。 ロシアは海上輸送される原油輸出の約3分の1(日量150万バレル)をバルト海への玄関口であるデンマーク海峡経由で実施している。この輸送が止められれば、ロシアにとって大打撃であることは間違いない。世界の原油価格が急騰するリスクも生じる。 今後の進展次第では、原油市場の「ブラックスワン(市場が予想できない衝撃の大きな事象)」になる可能性は排除できないだろう。 中東情勢の泥沼化も進んでいる。