米国のスパイ法、日本も人ごとではないのに議論されるのは米国民の人権のみ 年末の期限切れ控え政権と議会が攻防【ワシントン報告⑨インテリジェンス】
米国で捜索令状がなくても外国人の電話やメールの情報を収集できる「外国情報監視法」(FISA=Foreign Intelligence Surveillance Act)702条の期限が年内で切れる。米国にとって「最も重要なインテリジェンスのツールの一つ」(国家安全保障問題担当のサリバン大統領補佐官)とされ、情報機関が有効なスパイ手段として活用してきた。安全保障のため延長を求める政権と、人権侵害を懸念する議会の攻防が続く。外国人の目から見て気になるのは、実際に情報を抜き取られるわれわれ外国人の人権がまるで考慮されていない点だ。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 企業を脅迫、政治的主張、それにスパイ目的…多様化するハッカー集団
▽「命を救い、国を守る」 ワシントンのシンクタンクが8月に開いた会合。サイバー軍司令官を兼ねるポール・ナカソネ国家安全保障局(NSA)局長が声を強めた。「702条はわれわれの命を救い、国を守っている」。米国の情報機関というと中央情報局(CIA)を思い浮かべるが、通信傍受を担うNSAこそが、世界最大のインテリジェンス機関と呼ばれてきた。 「(医療用麻薬フェンタニルの原料となる)中国からの化学物質に関する情報もFISAによってもたらされている」。ナカソネ氏は深刻な社会問題になっているフェンタニルを挙げて身近な関心に引きつけ、法律の意義を強調してみせた。 かつては電話や電波の傍受が中心だったNSAだが、インターネットの爆発的な普及でデータ通信の収集にウエートが移っている。FISAを根拠に電話会社やIT大手から通話履歴や電子メールの送受信内容を強制的に入手してきた。 702条で得た情報を使える機関はNSA、CIA、連邦捜査局(FBI)、国家テロ対策センター(NCTC)の四つに限定されている。このうちNSAだけが通信業者からの情報収集権限を持ち、CIAとFBIは自分たちが欲しい情報をNSAに依頼せねばならない。NCTCはそうした依頼権限がなく、NSAが集めた情報の検索にとどまる。